最新記事

インタビュー

米ファウチ所長「大統領選前のワクチン完成は非現実的」

2020年9月29日(火)18時15分
ニューズウィーク米国版編集部

1984年から国立アレルギー・感染症研究所の所長を務めるファウチ KEVIN LAMARQUE-REUTERS

<ワクチン完成を急かすトランプ大統領と対立する国立アレルギー・感染症研究所のファウチ所長は、「ホワイトハウスの情報発信は人々の疑念につながっている」と語る>

米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、アメリカで最も有名な新型コロナウイルス感染症の専門家。感染症のパンデミック(世界的流行)だけでなく、それに伴う政治的混乱のこともよく知っている。

ファウチは現在、11月3日の大統領選前にワクチンの完成を急がせるトランプ大統領と対立しているところだ。大統領選前にワクチンの承認を強行する大統領令について、ファウチは本誌とのインタビューでこう語った。

「ワクチンの安全性と有効性を確認するために何が必要かを理解する人々の手で打ち砕かれるだろう。世間に恥をさらすことになる」

◇ ◇ ◇

──ワクチンの完成を急がせる政治的圧力は有害か。

例えばこんな状況を想像してみてほしい。突然、ホワイトハウスの誰かが(食品医薬品局〔FDA〕の)長官を呼び出し、「今すぐこのワクチンを出せ。さもないとクビだ」と言う。そんなことをすれば、世間から非難されるだろう。考えられないことだ。

(ワクチン承認の)過程にはチェックポイントがいくつもあり、本当に安全で効果があると分かる前に政治が影響を与えることは極めて困難だと思う。国立衛生研究所(NIH)が関係する全ての臨床試験には、データ安全性モニタリング委員会という独立した組織が関与する。そして私やNIHのフランシス・コリンズ所長のような専門家もいる。私たちは時期尚早の緊急使用許可にはっきりと懸念を表明してきた。

── 政治が「反ワクチン派」を勢いづけることを心配しているか。

もちろん。FDAはディープステート(国家内国家)の一部だとか、FDAがヒドロキシクロロキンの緊急使用許可を出した後に撤回したとか、大統領はヒドロキシクロロキンに好意的だとか......。ホワイトハウスのこうした情報発信は、明らかに人々の疑念につながっている。

──米モデルナ社製ワクチンの予備的治験データはあるか。

今のところ何もない。大半の被験者はまだ2回目の接種を受けていない。おそらく9月末までには、どんな状況か分かるだろう。

──治験がいつ終わるのか分からないのか。

仮に賭けをするなら、11月か12月になると思う。

──このワクチンの効果についてはどうか。

第1相試験は被験者45人の小規模なものだったが、自然感染と同等かそれ以上のレベルで中和抗体を誘導した。これは良い兆候だ。私の推測では、ワクチンの予防効果は70~75%程度だと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決

ワールド

トランプ氏、ウクライナにパトリオット供与表明 対ロ

ビジネス

ECB、米関税で難しい舵取り 7月は金利据え置きの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中