最新記事

独占インタビュー

イアン・ブレマーが語る「コロナ後」「Gゼロ」の新世界秩序(前編)

LIVING IN THE GZERO WORLD

2020年9月18日(金)17時00分
ニューズウィーク日本版編集部

NW_BMH_03.jpg

「私が恐れるのは、コロナ危機が指導者に対して大胆な構造改革を迫るのに十分ではないかもしれないことだ」(ブレマー) ALY SONGーREUTERS

ポトリッキオ あなたの感覚では、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)や国際秩序の変化について、私たちはおおげさに騒ぎ過ぎているらしい。具体的にはどんな点か?

ブレマー 例えば、民主主義の諸制度が崩壊しつつあるという考えだ。困ったことだが、アメリカ人の半数はアメリカの選挙が自由でも公平でもないと見なすようになるだろう。しかし事実としてアメリカは民主主義の国であり続けるし、その諸制度は機能し続けるだろう。実のところ、アメリカがこの危機にうまく対処できておらず、今後もできないであろう理由の1つは、アメリカがあまりに豊かで、その諸制度が硬直化している点にある。

今のアメリカ人が、多くの国で歓迎されていないのは事実だ。それは残念なことだが、だからと言って米ドルが世界の基軸通貨として機能しなくなったわけではない。中国人が自分の子をアメリカの大学に入れたいと思わなくなったわけではない。アメリカ市場に投資したい、アメリカ国債を買いたいと思わなくなったわけでもない。

ドナルド・トランプ米大統領は世界の多くの指導者から酷評されているが、この政権の外交政策について言えば、意外なほど数多くの成功があったと思う。いい例がアメリカの対中政策、とりわけ5Gの通信技術に関する対応だ。この件では現に多くの国がアメリカに同調している。

アメリカの移民政策について言えば、トランプはメキシコが自費で壁を建設すると言ったが、それはもちろん実現していない。しかしメキシコは実際に南の国境警備を大幅に強化して自国への、そしてアメリカへの不法移民の侵入を食い止めている。トランプが「そうしなければ輸入品に関税をかける」と脅したからだ。これは大きな勝利だ。バラク・オバマ前大統領ではできなかった。ただし、トランプがこうした勝利を挙げたのは彼が有能な大統領だからではない。アメリカが今も世界最強の国であり続けているからだ。

私が思うに、トランプがアメリカ大統領だという事実は世界の劇的な変化の反映だという言い方は大げさ過ぎるし、騒ぎ過ぎだ。私たちがトランプを選ぶずっと前から、Gゼロ世界の到来は予見されていた。中国における習シー・チンピン近平国家主席の存在は、あの国における劇的な政策変更の表れであって、トランプがアメリカ国内でやったこととは関係ない。

もう一つ、欧州のポピュリズムやEUの崩壊についての話や懸念も騒ぎ過ぎだ。ブリュッセルで欧州単位の機関を運営している人々が非常に有能なテクノクラートであることは明らかで、先端技術に関する数々の新基準や政策、規制もうまくやっている。気候変動の問題にも、この先うまく対応していくことだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中