最新記事

ブレグジット

イギリス、EU離脱協定骨抜き法案提出がもたらす危機シナリオとは

2020年9月12日(土)09時51分

◎トンネル協議

EUの説明では、離脱協定と将来の関係を巡る交渉とは別の話だが、実際には離脱協定に関する論争が将来関係の交渉に影を落としている。EUとしては当面、英政府に対し、将来関係についての新しい合意を駄目にしないように、また離脱協定を必ず順守するように説得を続けたい考えだ。

貿易交渉の面では、漁業権や国家補助を含めた公正な競争確保、将来の紛争解決方法などで意見が折り合わず、話し合いの主な障害になってきた。これらの分野で暫定的な進展が見られた場合は、10月半ばまでより集中的・選別的な「トンネル協議」に入ることができる。ただ国内市場法案に対するわだかまりが尾を引くようなら、そうした展開は期待できない。

◎10月15日/EU首脳会議

ジョンソン首相は10月15日までにEUとの将来の関係について交渉をまとめたいと表明、それがかなわなければ貿易交渉を打ち切り、合意なき離脱に向けた計画に専念するとしている。

EUは10月15-16日に首脳会議を開く。この時点までに将来関係の交渉が完了していない場合は、EU側も緊急計画の準備が必要だと強調する公算が大きく、合意なきブレグジットの現実味が増してくる。

◎10月末/11月初旬

EUはこれまで、英国との将来関係交渉は10月末まで、あるいは最悪でも11月の最初の数日間までにまとめないと、欧州議会や多くの加盟国議会で年末までに批准できなくなるとの見解を示してきた。

一部のEU高官は、これらの時期が過ぎても英国と話し合いを継続する可能性があると認めている。しかしそれでは来年から新たな関係の枠組みを実施できる可能性が低下し、英EUともに貿易やビジネス、市民生活の分野でリスクが高まる。

◎年末/来年1月1日

英国のEU完全離脱までの移行期間が終了。新たなFTAが成立していなければ、従来の緊密なつながりは幕を閉じ、世界貿易機関(WTO)の定める貿易規定に基づく関係に戻る。つまり来年1月1日以降、英EU間の貿易には関税と数量割り当てが導入される。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・パンデミック後には大規模な騒乱が起こる
・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死


20200915issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第3四半期速報値は4.3%増 予想上回る

ビジネス

米CB消費者信頼感、12月は予想下回る 雇用・所得

ワールド

トランプ氏「同意しない者はFRB議長にせず」、就任

ワールド

イスラエルのガザ再入植計画、国防相が示唆後に否定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中