最新記事

日本政治

菅首相の肝いりデジタル戦略を待ち構える2つの「罠」

2020年9月25日(金)10時57分

菅義偉新首相のデジタル戦略を金融市場も期待を持って見つめている。写真は14日、自民党本部で写真撮影に応じる菅氏。代表撮影(2020年 ロイター)

菅義偉新首相のデジタル戦略を金融市場も期待を持って見つめている。規制改革の一環として、行政のデジタル化に意欲をみせていることが、世界的な株価調整の中で、日本株が比較的底堅い動きをしている理由の1つだ。抵抗勢力に負けず原則を貫けるのか──。ポイントとしてみられているのが、適用除外と予算膨張だ。

骨抜きの懸念

日本の行政デジタル化への施策は今に始まったことではない。これまで約20年、何度となく法律が制定されてきた。行政のデジタル化に関する基本原則や個別施策を定めた「デジタル手続法」は2019年5月に国会で可決されたばかりだ。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で明らかになったように「デジタル・ガバメント」は遅々として進んでいない。うまくいっていない理由の1つとして挙げられているのが、法律に適用除外が少なからず入っていることだ。

適用除外とは、文字通り法律の適用を除外する条項。デジタル手続法では、「対面により本人確認をするべき事情がある」、「書面の原本を確認する必要がある」などの場合は、適用を除外することができると定められている。昨年7月に内閣官房IT総合戦略室が公表した資料によると、現行の行政手続きオンライン化法における適用除外手続きは約230に上る。

性質上、オンラインにそぐわない手続きもあるとはいえ、インターネットを使った面談、書類の電子化など技術が進歩しながら、「必要だから」の一声で、デジタル化が止まってしまう例は少なくないと専門家の多くは指摘する。適用除外を設けておけば、デジタル化で、行政手続きが自分の省を素通りしてしまわないようにできるためだ。

「省益を守るために適用除外がたくさん入ってしまっては、デジタル化がまた骨抜きにされてしまうおそれがある。司令塔となるデジタル庁が横断的な指導力を発揮できるかのカギにもなる」と、日本総研の主任研究員、野村敦子氏は指摘する。

肥大化した復興予算

各省庁の動きを常にモニタリング・検証していくことも、デジタル戦略の実効性を保つために欠かせない。どさくさにまぎれた予算が入れば、肥大化し、効率も悪くなる。

よく例に挙げられるのが、2011年の東日本大震災のときの復興予算だ。合計約19兆円の復興予算の一部が、沖縄の道路整備や、青少年の国際交流事業、北海道や川越の刑務所での職業訓練拡大、反捕鯨団体(シーシェパード)対策、国立競技場補修などに充てられたとして問題になった。

被災地以外での「ウミガメの保護観察」や「ご当地アイドルのイベント」などが、果たして復興につながる予算なのか、国会でも質問が出た。政府側の答弁は、予算を交付された地方行政府がそれぞれ「予算付け」を判断したというものであった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ

ワールド

豪が16歳未満のSNS禁止措置施行、世界初 ユーチ

ワールド

ノーベル平和賞受賞マチャド氏の会見が中止、ベネズエ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中