最新記事

新型コロナウイルス

イソジン品切れ騒動に学ぶインフォデミック 情報の真価を見極める方法とは

2020年8月18日(火)11時06分
加藤眞三(慶應義塾大学看護医療学部教授) *東洋経済オンラインからの転載

大阪府の吉村知事のひと言で、あっという間にイソジンうがい薬が消えてしまったが……。REUTERS / Issei Kato

新型コロナウイルス感染拡大により、全世界の人々の社会生活や経済が大きな影響をうけています。そんな中、医療情報に関しても、多くの情報が錯綜するとともにあふれており、どれを信じてよいのか、誰を信じてよいのかと悩まされている声を頻繁に聞きます。

8月4日夕方にも、友人より「医者だからイソジンうがい薬を手に入れられないか」との問い合わせがありました。「10年以上イソジンうがい薬を処方したことはないよ。なぜ?」とたずねると、「大阪府の吉村洋文知事が、うそみたいな本当の話として、ポビドンヨードの入ったうがい薬がコロナの特効薬だとテレビで話していた」というのです。

「いや、そんなのは、デタラメだから信じないほうがいい」と返答してみたものの、気になってネットで調べると、すでにイソジンうがい薬は店頭から消え去り手に入らないとの記事が出回っていました。「○○が健康にいい」とテレビ番組で紹介されると、それがすぐに売り切れて店頭から消えるという既視感のある現象が起きていたのです。

科学的根拠がなく、医学的な常識に合わない

わたしが「そんなのは、デタラメだから」と答えられたのには、次のような考察ができたからです。まず、医療情報はエビデンス(科学的根拠)の積み重ねの上に成り立っています。ですから、1つの情報について「科学的常識に合うか合わないか」で、ふるい分けられるのです。

加えて、それが「誰によって、どのような形で発せられたのか」をみます。さらに、その情報は「何を目的に発信されているか」を推測します。そのうえで、「科学的なエビデンスに基づいているものかどうか」、情報の内容を吟味することになります。

今回のイソジンうがい薬の件に当てはめてみると、当初の発表は医学的な常識と合いませんでした。2005年の『American Journal of Preventive Medicine』という学術雑誌に、京都大学川村孝教授(当時)らが、ポビドンヨードのうがいは、水でのうがいに比べてむしろ風邪にかかりやすくするという結果を報告しています。

そのことは、多くの臨床医の間で常識となっています。だから、これまでもポビドンヨード液を処方することはせず、他のうがい薬を処方してきましたし、水でうがいするだけで十分であることを伝えてきました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏GDP、第1四半期は前期比+0.2%に加速 予想

ビジネス

日揮HD、24年3月期は一転最終赤字に 海外事業で

ビジネス

独VWの第1四半期、営業利益が20%減 年間目標は

ビジネス

米テスラ、上級幹部を削減 追加レイオフも実施=ニュ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中