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イソジン品切れ騒動に学ぶインフォデミック 情報の真価を見極める方法とは

2020年8月18日(火)11時06分
加藤眞三(慶應義塾大学看護医療学部教授) *東洋経済オンラインからの転載

川村氏の研究は、無作為にグループを分けてうがい液の効果を観察するという科学的にしっかりとした方法で行われており、アメリカの学術雑誌に発表されていることを踏まえても、信頼性が高いものです。通常医師は、このような科学的根拠を大切にして日常の臨床にあたっています。ただし、以前は正しいとされていた内容が、その後ひっくり返されることもあります。

そのため、以前からの常識と異なる結果が発表されれば、どちらを信じるべきか吟味しなければいけません。その際にも、「学会で報告された」という段階であれば、そういうことを報告する人もいるのだという程度で受けとめます。

最終的に一流の学術雑誌に掲載された時点で、今までの医学常識が間違っているかもしれないと考え、新しい論文を精読し吟味します。一流の学術雑誌に掲載されているということは厳しい審査を通り抜け、専門家の間で行われる質疑応答を経ているからです。ですから、学会での報告時点でマスコミに取り上げられていても、まだ信用できる情報とは言えません。

今回のイソジンうがい薬の件は、専門家が集まる学会で報告されたわけでもなく、大阪府知事がフライング気味に発表したものであり、多くの臨床医は首を傾げています。このようなときは、「情報を発信した人は、そのことによりどのような恩恵(利益)を得るだろうか」「何を目的に発信しているのか」という目で、起きていることを見ることが重要です。

「期待」とともに広がる情報発信の罪

たとえば私は次のように推察しました。大阪府知事が情報をテレビで発信したのは、市民からのウケがよくなることを期待してのことでしょう。テレビ局などがこぞってこの情報を発信したのは、視聴者(お客様)である市民の側に、「何か特別の薬が、新型コロナ感染拡大という大きな問題を解決してくれる」という期待があるからでしょう。

テレビ局などのマスコミが、市民の期待に応える形で、有効なワクチンや特効薬が短期間に開発され、今にもあらわれるかのように報じることは、市民が現実から目を背けることを後押しすることになると私は思います。

大阪府知事は今回の発表について、研究の推進と協力を求めるためだと言い訳していますが、むしろ、このことによって、研究は停滞することになるのではないかと懸念しています。なぜなら、ポビドンヨード液がよいという結論が先にありきで研究を進めることになってしまい、従来コントロール群(例えば「うがいしない」や「水でうがい」)に入っている人が、研究に参加することを拒否する可能性があるからです。

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