最新記事

日本社会

コミュニケーションの場「銭湯文化」を創る新世代 コロナ禍を乗り越えて

2020年8月8日(土)14時42分

番台に立つ岩崎さんの妻・栄子さん(写真)。7月20日、東京で撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

クラフトビールと生演奏が楽しめ、宿泊もできる。東京・錦糸町で昔ながらの銭湯「大黒湯」を営む新保卓也さんは、そんな新しいコンセプトの共同浴場を作りたいと考えていた。老朽化した近所の姉妹店「黄金湯」を改装し、衰退が続くこの産業を救うことを目指していた。

その矢先、新型コロナウイルスが発生した。

政府や東京都が休業要請を出す中、残り少なくなった銭湯は人々が生活する上で欠かせない施設とされ、営業を続けるよう要請を受けた。

「人件費や光熱費などは変わらないが、お客さん自体が少なくなった」と、新保さん(41歳)は言う。客は6割減少、さらに姉妹店の改装費用が新保さんの不安を募らせた。「経営は赤字でやっていた形」と話す。

温泉は日本で人気のレジャーだが、銭湯は昔から自宅に風呂がない人のためのものだった。浴場は社交の場でもあり、地域社会の絆を深める場でもある。しかし、今はコロナの感染拡大を防ぐため、客は会話を控えている。

「銭湯というのは身分や大人・子供も関係なく、裸で入れるところがいい。文化だと思っている」と新保さん。「でも、やはり変わっていかないといけない」。

家庭に風呂があるのが一般的となった今、銭湯の数は1968年の1万8000軒をピークに2000軒近くまで減った。サウナやジャグジー、露天風呂を増設しても、健康ランドやスパのような大型施設には太刀打ちできない。

それでも、この非常時に自転車を毎日15分こいで「新保の湯」に通う客もいる。「コミュニケーションがとれて、裸の付き合いでフレンドリーになれる」と、83歳の常連男性は話す。

3代目の新保さんは、現代的な楽しみを取り入れて伝統を守ろうとする新世代の銭湯経営者の1人だ。浴場にテレビ画面を設置したり、ロビーにシェアワークスペースを設けたり、ビールサーバーを置く銭湯もある。

東京・小岩で「友の湯」を経営する2代目の岩崎久雄さんは、ロビーに設置した鉄道模型と12匹の飼い猫を、長く続けられている理由に挙げる。

「何か特徴を持っていないとお客さんが来てくれない」と、岩崎さんは言う。妻の栄子さんによると、それでも非常事態宣言の間は客が半減したという。

錦糸町の新保さんは、 周辺にある銭湯18軒のうち、5年後に営業を続けているのは半分以下かもしれないと懸念する。姉妹店を改装することで、生き残るための新たな方向性を他の経営者たちに示せるのではないかと考えている.

「これがビジネスモデルとして成功するようであれば、同じようにやってみようという気になって、それが継承されていく」と、新保さんは話す。

新型コロナの影響で、「黄金湯」の改装は延期された。風呂を沸かすなど営業コストは変わらないのに、客は減少した。それでも新保さんは計画を維持するため、クラウドファンディングで目標の2倍以上の700万円を集めた。

「正直、これですべてを埋めるのは難しい」と新保さん。しかし、多くの支援者が、戦い続けるようにと応援してくれたという。 「ものすごく勇気づけられた。日本人からも外国人からも、続けてほしいと期待されている」。


Elaine Lies

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット 一方で「TPOをわきまえろ」と論争に


2020081118issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
楽天ブックスに飛びます

2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、日本など名指しで非難 対イラン軍事作戦

ワールド

トランプ氏、イラン「一夜で壊滅」も 7日までの合意

ビジネス

FRB引き締め策を支持、雇用より物価を懸念=2地区

ワールド

ホルムズ海峡再開後、早期に原油輸出回復へ イラク石
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 4
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 5
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 6
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 7
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 10
    認知症検査をすり抜ける? 「物忘れ」よりも早く現れ…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中