トランプ最強の指南役、義理の息子クシュナーの頭の中
The Utility Player
こうしてクシュナー組が奮闘しているうちに季節は夏となり、そろそろ最悪の時期は脱したかに見えた。ところがトランプが経済活動の再開を急いだせいでテキサスやフロリダ、アリゾナなどで感染が激増した。医療現場では再びPPEの不足が目立ってきた。
例えば、テキサス州フォートワースにある小児科病院の医師キャスリン・マンダルは、ひと月ぶりで防護手袋を1箱注文できたけれど価格は以前の5倍だったと訴えている。
本来なら、今の時期にはこれくらい患者が増えても間に合うだけの供給体制ができていたはずだと、クシュナーは言う。しかし経済活動の再開を急ぎ過ぎたせいで想定外の感染者が増えた。クシュナーの努力も水の泡だ。この夏はトランプ再選を確実にするために全力を挙げるつもりだったが、今はそうもいかない。
中東和平の調停
イスラエルとパレスチナの紛争を解決するために誠実な努力をしていると、クシュナーは言う。パレスチナ側の頑迷な姿勢ばかり際立たせることで、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(クシュナー家とは旧知の仲だ)にヨルダン川西岸で好き放題にやらせるつもりではないと。「批判は承知している」と彼は言う。でも「難しい問題に挑むのは好きだ。厄介なことこそ、やりがいがある」
実際、クシュナーは持ち前のひたむきな姿勢で問題に取り組んでいる。過去の経緯を勉強し、専門家や交渉経験者の話に耳を傾けている。彼に相談を持ち掛けられた人たちも、総じて彼の誠意を認めている。ただしこれまでの交渉の努力を否定したがる点は気にしている。
「前任者たちの多くは希望を与えることが目標だと言うが、それでは交渉にならない」とクシュナーは言う。「私の目標は交渉をまとめ、これに終止符を打つことだ」
つまり、従来の道をたどって失敗を繰り返すのは嫌だということ。そこでワシントン中近東政策研究所のロバート・サットロフ所長が「今までとは違う道で失敗したいのか」と切り返すと、クシュナーは苦笑したそうだ。
それでも過去の交渉人に比べると、彼には一つ強みがある。イスラエル側もパレスチナ側も、彼とトランプが一心同体であることを決して疑わない点だ。
しかしクシュナーの提案には問題があった。パレスチナ国家の樹立を認めるとしながら、パレスチナ側に新国家の出入国管理権を放棄するよう求め、治安の維持もイスラエル側に委ねるとしていたからだ。しかし、国境も治安も自分で守れない国家は国家ではない。前出のサットロフに言わせれば、それは「パレスチナから国家の最も基本的な機能を奪う」提案だった。
さらにクシュナーは、自分の案で妥結すれば経済支援をするが、その額は合意の締結に要する時間に応じて減額するという条件を付けた。再びサットロフに言わせれば、それはいかにも不動産屋らしい手口であり、「新しいビルを建てたいオーナーが既存のテナントを立ち退かせるやり方にそっくり」だった。
当然、この提案はすぐに頓挫した。しかしクシュナーは非を認めない。パレスチナ側は「譲歩を口にするだけで、テクニカルな話に乗ってこない。だから議論が進まなかった」。つまり、非はパレスチナ側にありということだ。