最新記事

アメリカ政治

トランプ最強の指南役、義理の息子クシュナーの頭の中

The Utility Player

2020年8月1日(土)15時20分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

例えばPCR検査の拡充策だ。数をこなせるドライブスルー方式の検査を広めるため、大手小売りチェーンのウォルマートやドラッグストアのCVSなどの民間企業から協力を引き出した。「クシュナーのチームと仕事するのに問題を感じたことは一度もない」と言ったのは、PCR検査の実施場所を調整した保健福祉省次官補で医師でもあるブレット・ジロワーだ。

3月13日にトランプがドライブスルー方式の検査を発表した時、失笑を買ったのは事実だ。あれは時期尚早だった。実施に必要な準備はまだ整っていなかったのだから。

しかしボーラーによると、今では3000カ所以上でドライブスルー方式の検査が行われ、その件数は1日60万件超。3月半ばの1日1万5000件とは比較にならない規模だ。ただし検査待ちの行列が長くなり、判定に時間がかかるので接触追跡は思うように進んでいない。

クシュナーの交渉手腕が発揮された面もある。例えば感染予防に不可欠な高機能マスクN95の調達だ。製造元の米企業3Mは上海工場で月産5000万枚という量産体制を敷いていたが、その工場は当時、上海市当局の管理下に置かれていた。

そこでクシュナーは崔天凱(ツォイ・ティエンカイ)駐米中国大使に電話して「いろんな事情はあるだろうが、(米企業である)3M社の上海工場からマスクを買えないというのでは(アメリカの世論が)納得しない」と告げた。すると12時間後には輸出の許可が下りたという。

ホワイトハウスの新型コロナウイルス対策顧問を務めるデボラ・バークスは、人工呼吸器の調達でクシュナーと緊密に協力した。人工呼吸器が足りないので助かる患者も助からないという悲鳴が、ニューヨーク州のアンドルー・クオモ知事などから上がっていた時期のことだ。

ある高官によれば、当時は5月1日までに追加で13万台の人工呼吸器が必要だとする試算もあった。だが疾病対策センター(CDC)にある戦略的国家備蓄は1万2000~1万3000台にすぎなかった。

そこでクシュナーはトランプに話して国防生産法の発動を促す一方、各地の州知事に電話をして「無駄をなくす」ように求めたという。「州内に何台あり、どれだけ使われているかを聞いた。全く知らない知事もいた」

クシュナーによると、クオモ知事とは良好な関係を築けた。国中にいっぺんに人工呼吸器を配るのは無意味だとクオモは言い、クシュナーもそれに賛同した。まずは事態の深刻な都市や州に優先して配置し、落ち着いたら別な地方へ回せばいい。

結局、連邦政府はクオモ=クシュナー路線で動き、最悪の事態は回避された。この点ではクオモも、クシュナーの手腕を評価している。

<関連記事:トランプ姪の暴露本は予想外の面白さ──裸の王様を担ぎ上げ、甘い汁を吸う人たちの罪

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、先月に金輸入枠を拡大 元高阻止目的も=

ビジネス

世界のIPO、4月は前年比81%減の26億ドル=L

ワールド

プーチン大統領、訪ロした中国国家主席をクレムリンで

ビジネス

世界のM&A、4月は前年比11%増の2581億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 5
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 8
    「関税帝」トランプが仕掛けた関税戦争の勝者は中国…
  • 9
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 10
    日本の「治安神話」崩壊...犯罪増加と「生き甲斐」ブ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中