最新記事

東南アジア

インドネシア治安当局、NZ人殺害のパプア武装組織の拠点を急襲 約300人で激しい戦闘、パプア人司令官を銃殺

2020年8月19日(水)20時23分
大塚智彦(PanAsiaNews)

過去にも襲撃事件に参加、指揮

治安当局によるとヘンキ容疑者は2009年に3人が死亡、11人が負傷したグラスベルグ鉱山襲撃事件に参加しており、その後も同鉱山やその関連施設への攻撃をたびたび実行したという。そして2018年にTPNPBのミミカ県を中心とする中央山岳地帯を活動拠点とするグループの司令官になったとしている。

16日の作戦で治安部隊はヘンキ容疑者らが滞在していた拠点から手製武器とともに銃弾381発、現金約1500ドル相当、複数の携帯電話、掲揚や所持が禁じられているパプア独立旗3枚を押収したという。

治安当局では攻撃の際に負傷して山間部に逃げ込んだ3人の行方を追うとともに同グループの壊滅を目指して作戦を継続中で「メンバー拘束にはその生死を問わない」との指示が出ているという。

独立組織と犯罪組織の違い

パウルス州警察本部長は記者会見でヘンキ容疑者が率いるグループ「TPNPB」について「犯罪組織」との表現を使って独立を求める武装組織とは異なるとの立場を強調した。

パプア州、西パプア州からなるパプア地方では長年インドネシアからの独立を求める「自由パプア軍(OPM)」による抵抗運動が1965年以来小規模ではあるが現在も続いている。

TPNPBはOPMの分派の一つで、パプア州中央山岳地帯を中心にさらに複数のグループに細分化され、それぞれが「司令官」に率いられて治安部隊や政府組織、鉱山施設などへの襲撃を繰り返している。

インドネシア側はTPNPBなどの分散化した組織を「独立運動組織」とは認めず単なる「犯罪組織」と位置づけることで、一般のパプア人住民に対し「情報提供」を呼びかける対策を取っている。

パプア州の中央山岳地帯では2018年12月に道路建設工事現場が襲撃され、非パプア人労働者19人が殺害される事件が起きている。この事件も警察は「犯罪組織の犯行」として、750人の治安部隊を増派して摘発を強化した経緯がある。

さらに2019年8月に東ジャワ州スラバヤのパプア人大学生寮に踏み込んだ地元警察官がパプア人大学生の連行に際し、集まった周辺の住民と共にパプア人に対し「サル」「イヌ」「ブタ」などと差別発言を繰り返したことで全国的にパプア人による「差別反対」のデモや集会が拡大した。

その後「差別反対」の抗議運動は「パプア独立の是非を問う住民投票実施」という独立運動に変質して拡大。パプア地方にも飛び火したこのデモや集会は一部都市で暴動化。死者約40人がでる事態を招き、治安当局はさらに約3000人の要員をパプア地方に増派して事態の沈静化に乗り出した。

このようにパプアの治安が悪化するたびに軍や警察は要員を増派して治安維持に当たっているが、一方で治安要員によるパプア人一般市民の不当逮捕、暴力行為、一方的殺害などの人権侵害も深刻化していると伝えられている。


【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

キーウ空爆で8人死亡、88人負傷 子どもの負傷一晩

ビジネス

再送関税妥結評価も見極め継続、日銀総裁「政策後手に

ワールド

ミャンマー、非常事態宣言解除 体制変更も軍政トップ

ワールド

ロシア前大統領、トランプ氏の批判に応酬 核報復シス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中