最新記事

環境問題

血に染まったような赤い雪景色がアルプス山脈の氷河で観測される

2020年7月22日(水)16時45分
松岡由希子

イタリア北部プレゼナ氷河も、氷河が赤くなった...... @DiMauro_b-twitter

<アルプス山脈に属するイタリア北部プレゼナ氷河で、ピンク色に染まった氷河が観測された。これによって、熱を吸収しやすくなり、氷の融解を加速させる可能性がある......>

氷雪藻によって雪や氷が赤く染まる現象は、これまで北極で確認されてきた。2020年2月には、ウクライナの南極観測基地「ベツナツキー基地」の周辺で赤く染まった雪が一面に広がる光景がとらえられている。そしてこのほど、アルプス山脈に属するイタリア北部プレゼナ氷河でも、ピンク色に染まった氷河が観測された。


●参考記事
血に染まったような赤い雪景色が南極で観測される

氷雪藻によって、熱を吸収しやすくなり、氷の融解を加速させる......

イタリア学術会議(CNR)のビアージョ・ディマウロ研究員によると、プレゼナ氷河をピンクに染めた要因は、氷雪藻の一種「アンチロニーマ・ノルデンスキオエルディー」だ。グリーンランドの暗色域でも生息が確認されており、2020年1月に発表された研究成果では、これによって、グリーンランド南西部の氷床の融解が加速していることがわかっている。

また、ディマウロ研究員らの研究チームは、2020年3月16日に発表した研究論文で、アルプス山脈に属するスイス東部モンテラッチ氷河でもアンチロニーマ・ノルデンスキオエルディーが多く生息していることを初めて明らかにするとともに、その密集度と氷河の反射率に相関関係があることを示した。

カロテノイドを含む氷雪藻は、雪や氷を赤く染める。赤く染まった雪や氷では反射能(太陽光を反射する割合)が減少するため、熱を吸収しやすくなり、氷の融解を加速させる。氷の融解がすすみ、より多くの水や空気が氷雪藻に供給されると、氷雪藻がより繁殖し、雪や氷をさらに赤く染めるという悪循環に陥る。

近年の夏の熱波によって氷雪藻が繁殖しやすくなっている?

ディマウロ研究員は「気候変動によって、この現象がより激しくなるかもしれない」と指摘する。実際、冬に降雪量が少なく、春夏の気温が高いと、氷雪藻は繁殖しやすい。現時点では、モンテラッチ氷河、プレゼナ氷河以外に、アルプス山脈で氷雪藻は確認されていないが、近年相次ぐ夏の熱波によって氷雪藻が繁殖しやすくなっているおそれはある。

ディマウロ研究員らの研究チームは、今後、地球観測衛星を用いて氷雪藻の分布状況を調査する方針だ。ディマウロ研究員は、「2019年3月に打ち上げられたイタリア宇宙機関(ISA)の地球観測衛星『PRISMA』が収集するハイパースペクトル画像を活用することで、アルプス山脈や極域雪氷圏での氷雪藻の影響について、より精緻に予測できるだろう」との見通しを示している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中