最新記事

台湾の力量

中国より株を上げた「台湾マスク外交」──もはや捨て駒ではない

“MASK DIPLOMACY” A BOOST FOR TAIWAN

2020年7月16日(木)06時40分
ニコル・チャオ(台湾在住ジャーナリスト)

国交のあるオセアニアの国々などに支援を申し出た(写真は寄贈式のために積み上げられたマスクの箱) BEN BLANCHARD-REUTERS

<台湾もマスク外交を展開、不良品をばらまいて信頼をなくす中国を尻目にソフトパワーを発揮している。果たしてその狙いとは? 本誌「台湾の力量」特集より>

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は基本的な医療用品の価値を変えた。マスク、綿棒、手袋、医療用ガウンなどPPE(個人用防護具)が世界的に不足し、多くの国々が輸出を規制する一方で、大量の緊急輸入に乗り出したからだ。おかげで、生産国は強力な交渉カードを手に入れることになった。

20200721issue_cover200.jpgその代表格が台湾だ。医療用マスクの生産では世界のトップクラス、しかも世界でも例外的にウイルスの感染封じ込めに成功している。

この強みを政治的に生かして長年のライバル・中国に水をあけるには今はめったにないチャンスだ。とはいえ、切り札は賢く使う必要がある。とりわけ対米関係ではそうだ。

人口2300万人の台湾は今やマスクの生産量で世界第2位。パンデミックのさなかで増産体制を整え、日に1700万枚を生産している。台湾政府は今年1月に施行した布マスクの輸出規制を3月には解除した。

この措置で恩恵を受けるのは、言うまでもなく感染者数世界最多のアメリカだ。台湾の呉釗燮(ウオー・シエチヤオ)外交部長(外相)は毎週10万枚のサージカルマスクをアメリカに寄付すると約束。アメリカはお返しに台湾に30万着の防護服を送ることにした。

次いで台湾はマスクを最も必要としている国々に1000万枚を寄贈すると発表。これにはアメリカに追加支援として送られた200万枚も含まれる。

ここ何年か中国の圧力で台湾と国交を結んでいる国はめっきり減ったが、今も付き合いがあるオセアニアの国々などに台湾は快く支援を申し出た。さらにイタリア、スペイン、フランス、オランダ、イギリスなど多くの犠牲者を出した欧州の国々にもPPEを提供した。

輸出規制をムチにした中国

既に米台間では検査キットやワクチン、治療薬の研究開発を共同で進める計画がまとまっている。台湾外交部(外務省)と台湾における米政府の窓口機関・米国在台協会は3月に共同声明を発表。専門家の交流、医療用品・機器の確保、濃厚接触者の追跡方法・技術、感染防止と予防措置に関する研究調査でも協力体制を組むことを明らかにした。

米台の絆の深まりは、悪化する一方の米中関係と明暗を分ける。米中間では多少の相互支援はあったものの、実質的な研究協力に向けた協議はほとんど進展していない。

トランプ政権が2018年7月に始めた貿易戦争では、約50億ドル相当の医療用品にも高関税が課された。その結果、アメリカの中国からの医療用品の輸入は、2017年に比べ19年には金額にして2億ドル近く、16%も激減。逆に中国以外の国々からの輸入は23%増加した。中国からの輸入減のせいで、アメリカは新型コロナウイルスの猛威に万全な備えができなかったと、米有力シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所のチャド・バウン上級研究員は指摘する。

【関連記事】台湾IT大臣オードリー・タンの真価、「マスクマップ」はわずか3日で開発された
【関連記事】孤軍奮闘する台湾を今こそ支援せよ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルとの会談「無意味」、ヒズボラ指導者 レバ

ワールド

イタリア、トランプ氏の教皇批判に反発 メローニ首相

ワールド

イタリア、トランプ氏の教皇批判に反発 メローニ首相

ワールド

石油備蓄放出、「必要なら行動する用意」=IEA事務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ「EV撤退」が示す、日本が失った力の正体
  • 2
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目のやり場に困る」姿にネット騒然
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 5
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 6
    トランプがまた暴走?「イラン海上封鎖」の勝算
  • 7
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 8
    「違法レベル...」ゼンデイヤの「完全に透けて見える…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音楽市場で…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 8
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中