最新記事

感染症対策

新型コロナ「院内感染」の重い代償 医療の最前線で続く苦闘と挑戦

2020年7月1日(水)20時51分

疑似症でも積極的に受け入れ

同病院では、他の多くの医療機関に先駆け、コロナ患者の収容や治療に積極的に取り組んできた。川崎市にある聖マリアンナ医科大学病院とともに、横浜港に停泊していたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の感染者も真っ先に受け入れている。

同船でクラスターが発生したとの知らせを受けた桝井医師は、政府の財政支援が出ないコロナ疑似症も含め、乗客の収容を上層部に強く進言した。

不安に駆られている人たちの「行き場がなくなってしまう」と考えたからだ。上層部も「地域の中核病院として当然の役割」(佐野文明副院長)との判断に至り、同船から5人が同病院に入院した。

しかし、4月に入ると、市中感染の患者も増えはじめ、同病院職員の仕事は一気に増加。院内感染が起きた後は、桝井医師も含め、医師・看護師ら医療スタッフの7割にあたる600人近くが自宅待機を余儀なくされた。

一方、院内感染を起こした他の病院と同様に、同病院にも地元の人たちから抗議の電話が相次いだり、病院スタッフの家族が、学校や近所で心ない言葉に傷つけられるケースが報告されたという。

医療者としてのプライド

コロナ患者への対応に二の足を踏む病院がある一方、積極的に受け入れた病院が院内感染という重い代償に見舞われる。そこに矛盾や葛藤はないのか。

佐野副院長は「医療者としての矜持(きょうじ)」が難局に立ち向かう支えになっていた、と言う。「なぜ、うちの病院だけこんなに苦労しなければならないのかという思いはある。しかし、我々は当然のこととして、こういうことをやっているんだというプライドもある」

同副院長は動揺する病院スタッフに対し、「今回の院内感染を教訓に、以前にも増して地域から信頼され、全ての職員が満足して働ける西部病院を作っていこう」というメッセージを出した。

「30年以上の歴史の中で多くの職員によって築かれてきた地域における信頼が、新型コロナウイルスの院内感染により一瞬のうちに失われてしまいました」。

今も病院の廊下に張り出されている同メッセージは「本当に残念であり悔しさを拭いきれません」と続き、診療再開を待ちわびている多くの患者と地域に対し、必要な医療を提供する義務を訴えている。


【関連記事】
・東京都、新型コロナウイルス新規感染54人を確認 6月の感染者998人に
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・今年は海やプールで泳いでもいいのか?──検証
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル軟調、米中懸念後退でリスク選好 

ワールド

UBS、米国で銀行免許を申請 実現ならスイス銀とし

ワールド

全米で2700便超が遅延、管制官の欠勤急増 政府閉

ビジネス

米国株式市場=主要3指数、連日最高値 米中貿易摩擦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中