最新記事

生物

光を99%吸収 最も黒い深海魚が発見される

2020年7月20日(月)18時10分
松岡由希子

真に黒い魚...... ミツマタヤリウオ Idiacanthus antrostomas (Karen Osborn/Smithsonian)

<米デューク大学などの研究者は、光を吸収することで、身を隠し、天敵から効率よく逃れようとする18種39匹の深海魚を調べた......>

水深200メートル以上の深海は、ほとんどの光が海水に遮られ、暗闇が広がっている。このような環境下で生息する深海生物には、体内で光を生成して放射する「生物発光」や、深海に唯一届く青色光を吸収して異なる色の光を放出する「生物蛍光」などによって、暗闇を照らして獲物を探したり、これを惹き付けたりする種がある一方、これらの光を吸収することで、身を隠し、天敵から効率よく逃れようとする種もある。

光の反射率0.044%のユメアンコウ属

米デューク大学と国立自然史博物館(NMNH)の共同研究チームは、メキシコ湾とカリフォルニア州モントレー湾で採集した18種39匹の深海魚を対象に、分光計を用いて魚皮の反射率を測定した。2020年7月16日に学術雑誌「カレント・バイオロジー」で発表された研究論文によると、そのうち16種の反射率は0.5%未満で、魚皮に当たった光の99.5%以上を吸収していることがわかった。

Karen_-_Idiacanthus_ac.jpg

ミツマタヤリウオ Idiacanthus antrostomas (Karen Osborn/Smithsonian)

Karen_-_Anoplogaster1st_notkept_NM8n6-0593b_sm.jpg

(Karen Osborn/Smithsonian)

Karen_-_Idiacant.jpg

ミツマタヤリウオ Idiacanthus antrostomas (Karen Osborn/Smithsonian)


最も反射率が低かったのは0.044%のユメアンコウ属で、反射率が0.06%から0.4%程度の「最も黒いチョウ」よりも低く、反射率が0.31%から0.05%の「最も黒い鳥」といわれるフウチョウ科と同等であった。

研究チームでは、これらの「真っ黒な深海魚」の皮を電子顕微鏡で観察した。魚皮には、光を吸収する色素「メラニン」を含む細胞小器官「メラソーム」がある。

小さなパール状のメラソームが含まれる一般的な黒い皮と異なり、真っ黒な深海魚の皮では、大きく、ミントタブレット「チックタック」に似た形状のメラソームがびっしりと密集し、連続したシート状に形成されている。研究チームがコンピュータモデルを用いて、魚皮のメラソームの大きさや形をシミュレーションした結果、真っ黒な深海魚のメラソームは光を吸収するうえで最適な形状であることも明らかとなった。

真っ黒な物質をより安価に製造する手法として応用できる?

研究チームでは、このような深海魚の光の吸収のメカニズムが、顕微鏡やカメラソーラーパネルなど、他の分野にも応用できるのではないかとみている。たとえば、真っ黒な物質をより安価に製造する手法として応用できる可能性がある。

研究論文の責任著者で国立自然史博物館の動物学者カレン・オズボーン博士は「深海魚の皮のメカニズムに倣い、色素の大きさや形を最適化することで、より安価で丈夫な光吸収素材を実現できるだろう」と述べている

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア大統領、北朝鮮外相と会談 両国関係は「全て計

ワールド

米エネ省、AMDとスパコン・AIパートナーシップ 

ワールド

リトアニア、ベラルーシからの密輸運搬気球撃墜へ 空

ビジネス

マスク氏、CEO退任の可能性 1兆ドル報酬案否決な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中