最新記事

事件

インドネシア、汚職捜査官襲撃事件 被告の2警察官に求刑以上の実刑判決

2020年7月18日(土)11時56分
大塚智彦(PanAsiaNews)

裁判では軽い禁固1年を検察が求刑

裁判では2被告は全面的に起訴事実を認めて争う姿勢をみせず、6月11日に行われた検察側の論告求刑では捜査への協力姿勢や警察での勤務評定が評価され、また襲撃は顔面を狙ったものではなく「たまたま顔面にかかった結果」などの被告側言い分を考慮したとして「2被告に禁固1年」という実に軽い求刑となった。

この求刑にマスコミなどは「汚職捜査官に失明という重傷を負わせて求刑1年とは、出来レースに違いない」と疑問を呈し、これに世論も沸騰。この日の判決公判の行方が注目されていた。

2被告への判決が検察側の求刑を上回ったことについて裁判長は「2被告は警察への国民の信頼を著しく損なわせた」と述べた。しかし「求刑通りの禁固1年という軽い刑では、世論が再び沸騰する可能性もあり、司法としての立場を強調するという裁判官の配慮ではないか」(地元紙記者)との見方が有力で、長年言われている「インドネシア司法の腐敗」が依然として現存していることを国民に強く印象付ける判決となった。

判決後、2被告は判決を受け入れて控訴しない方針を明らかにしている。判決によると2被告は未決拘留期間が算入されることになるため、実際には刑期より早く釈放されることになる見込みだ。

「裁判は終始茶番」と捜査官

襲撃事件の被害者で現在も「隻眼の捜査官」として活躍中のノフェル捜査官は、判決公判を前にして「被告の2警察官が実行犯でないことは明らかであり、直ちに釈放されるべきだ」と述べ、被害者が加害者の釈放を求めるという異例の展開となっていた。

16日の判決を聞いたノフェル捜査官は地元マスコミに対して「裁判は実際の事実に基づかないで進められるなど終始茶番劇であった。これで全て幕引きになるということは汚職事件とその汚職事件捜査に対するインドネシアの司法、国家の姿勢が問われることになる」と不服を明らかにしている。

ジョコ・ウィドド大統領は「インドネシアの司法を信じる」として初公判以来司法に介入するのを避ける姿勢に終始している。今回の裁判、判決は2警察官が逮捕された当時から言われてきた筋書き通りに進行しており、国民の間からは「事件の本当の黒幕はこれで永久に暴かれることがなくなった」と司法、警察への不信をさらに強めている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


【関連記事】
・感染防止「総力挙げないとNYの二の舞」=東大・児玉氏
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・東京都、新型コロナ新規感染286人で過去最多を更新 「GoToトラベル」は東京除外で実施へ
・インドネシア、地元TV局スタッフが殴打・刺殺され遺体放置 謎だらけの事件にメディア騒然


20200721issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月21日号(7月14日発売)は「台湾の力量」特集。コロナ対策で世界を驚かせ、中国の圧力に孤軍奮闘。外交・ITで存在感を増す台湾の実力と展望は? PLUS デジタル担当大臣オードリー・タンの真価。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州委、XのAI「Grok」を調査 性的画像生成巡

ワールド

中国、春節中の日本渡航自粛勧告 航空券無料キャンセ

ワールド

OPECプラス有志国、3月の据え置き方針維持か 2

ワールド

インドネシア中銀理事に大統領のおい、議会委員会が指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 7
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 8
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 9
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 10
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中