最新記事

人種問題

奴隷貿易と保険会社 ─ 英国が向き合う人種差別の歴史

2020年6月23日(火)10時43分

黒人男性ジョージ・フロイドさんが米ミネアポリスで白人警官に暴行され、死亡した事件をきっかけに、人種差別を巡る歴史が世界的に見直されている。その中で英国は、自国の保険会社が奴隷貿易で担った過去に向き合っている。写真は、黒人への人種差別に抗議するデモ参加者。6月13日、ロンドンで撮影(2020年 ロイター/Simon Dawson)

黒人男性ジョージ・フロイドさんが米ミネアポリスで白人警官に暴行され、死亡した事件をきっかけに、人種差別を巡る歴史が世界的に見直されている。その中で英国は、自国の保険会社が奴隷貿易で担った過去に向き合っている。

英国は何世紀にもわたり、世界貿易を金融面から支えてきた。貿易保険もその1つで、世界的な保険市場である英ロイズ保険組合(ロイズ・オブ・ロンドン)は18日、18━19世紀に大西洋をまたいで行われた奴隷貿易における「恥ずべき」役割について謝罪した。

15世紀から19世紀にかけ、約1700万人のアフリカの男性、女性、子供が生まれ育った場所から連れ出され、世界で最も残忍な国際取引の一つに放り込まれた。多くの人が、情け容赦ない状況の中で命を落とした。

18世紀後半までに英国は奴隷商人大国となり、1761年から、奴隷貿易が廃止される1807年の間に取り引きされたアフリカ人の約40%を運んだ。

英国以外に奴隷貿易市場で大きな存在感を示していたのはポルトガルとその植民地ブラジルで、市場の約32%を占めていた。フランスは約17%、米国やオランダの船も関与しており、その割合はそれぞれ約6%と約3%だった。

奴隷市場は、英国の海上保険でどの程度の重要性があったのか

文書として記録されている証拠は多くないが、奴隷貿易と西インド諸島貿易を合わせ、1790年代の英国海上保険の41%を占めていたと歴史家は推定している。

「18世紀の英国海上保険の3分の1から40%は奴隷貿易と、奴隷が育てた作物の輸送が占めていた」と、Centre for the Study of the Legacies of British Slave-ownershipの元所長、ニック・ドレイパー氏は説明する。「英国に運んでいた砂糖は貴重な船荷を持っていたし、船自体も高価だった。英国は長く戦争状態にあったため、しばしば敵国の海域を通過していた」

主要な保険会社は

18世紀、主要な海上保険にはロンドン・アシュアランス、ロイヤル・エクスチェンジ、ロイズ・オブ・ロンドンの3社があった。

「ロイズは保険業界を独占していた。おそらく市場の80─90%を占めていた」とドレイパー氏は語る。「奴隷貿易が廃止された1807年までに、海上保険におけるその重要性は低下しつつあったった。奴隷制が廃止された1830年代には砂糖経済の重要性も薄れていた。そのころは、例えば奴隷が育てた綿花などを大量にアメリカ南部から英国に運んでいた」

奴隷貿易における保険の役割

当時の保険市場で奴隷は積み荷とみなされ、一般的な保険料に含まれていた。

奴隷は「小包(parcel)」と呼ばれることも多く、その価格は民族、体の大きさ、身長、年齢、性別、健康状態によって決められた。引受人からは家畜と並んで「生鮮品」に分類された。反乱によって奴隷に損害が出た場合、保険会社や裁判所は、暴風雨の中で家畜がパニックを起こしたのと同様に扱った。

「保険規約の多くは、病気や反乱で死亡した奴隷を対象から外していた。対象にしていたのは、海の危険にさらされる船だった」と、ドレーパー氏は言う。「運ばれた人たちが健康な状態で目的地で下船できるかどうかは、保険の対象外だった」

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・なぜ黒人の犠牲者が多いのか 米警察のスタンガン使用に疑問符
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・木に吊るされた黒人男性の遺体、4件目──苦しい自殺説
・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...


20200630issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月30日号(6月23日発売)は「中国マスク外交」特集。アメリカの隙を突いて世界で影響力を拡大。コロナ危機で焼け太りする中国の勝算と誤算は? 世界秩序の転換点になるのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ブラジル最高裁判事への制裁解除 前大統領の公判

ワールド

香港民主派メディア創業者に有罪判決、国安法違反で 

ビジネス

中国粗鋼生産、11月は23年12月以来の低水準 利

ビジネス

吉利汽車、2.84億ドル投じ試験施設開設 安全意識
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中