最新記事

米中新冷戦2020

限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない

‘THE ERA OF HOPE IS OVER’

2020年6月15日(月)06時55分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

だがそれも、バイデンが大統領選に勝てばの話だ。

米中貿易交渉で中国は、トランプが求める国有企業への補助金停止に応じず、「中国製造2025」で掲げた目標を取り下げる姿勢も見せなかった。パンデミック後に、経済交渉で米中が和解に至るシナリオはまず考えられない。

インドはこれまで米中間でうまく立ち回ろうとしてきたが、アメリカの対中政策では軍事的にも地政学的にもインドの立ち位置が重要になる。11月の米大統領選で誰が勝っても、アメリカはトランプ政権のアジア政策である「自由で開かれたインド太平洋」の枠組みにより強力にインドを取り込もうとするだろう。

アジアでも欧州でも、米政府が同盟国と連携を強化し、対中共同戦線を構築できる機運はかつてなく高まっていると、ランド研究所のスコット・ハロルドは言う。「私たちが接触した限り、どの国も(今の中国に)満足していなかった」

「熱い戦争」だけは避けたい

米主導の共同戦線を構築するためには、米政府は同盟国に一貫性のある明確なメッセージを出す必要がある。中国とのイデオロギー競争が激化するなか、「自由な国際秩序を擁護する国々、同じ志を持つ民主主義国家」の団結を訴えれば、同盟国は「自分たちの利益と価値観を守るために攻勢に出るはずだ」と、ハロルドは言う。

激化する米中の覇権争いでは情報戦がカギを握る。この点ではトランプ政権の成績はパッとしない。トランプは習との貿易交渉で成果を上げるのに必死で、香港の民主化運動に支持を表明することも怠った。パンデミックの勃発後は、特に途上国に向けたプロパガンダ戦で、アメリカは中国に出し抜かれている。中国共産党は「中国モデルを模範にせよ」とばかり、習近平の感染封じ込めの手腕を喧伝し、成果を上げている。

とはいえ、アメリカの次期大統領には素晴らしいロールモデルがいる。米ソの冷戦時代を通じて歴代の米大統領は自由主義陣営の価値観を雄弁に語ってきたが、ベルリンの壁崩壊の1年ほど前にホワイトハウスを去ったロナルド・レーガンはとりわけ説得力のある自由の守り手だった。

次の米政権が中国の挑む勝負を受けて立つなら、私たちはその手並みを見守ることになる。アメリカの影響下で中国が軌道修正するという読みは甘かった。次期大統領はそんな幻想にとらわれず、同盟国と共に強力なライバルを巧みに御しつつ共存の道を探らねばならない。

ミッションは明快だ。21世紀の冷戦を果敢に戦うこと。ただし、決して「熱い戦争」にしないことだ。

<2020年6月16日号「米中新冷戦2020」特集より>

【参考記事】「切り離してはならない」米中デカップリングに第2次大戦の教訓
【参考記事】コロナ禍、それでも中国から工場は戻ってこない

20200616issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月16日号(6月9日発売)は「米中新冷戦2020」特集。新型コロナと香港問題で我慢の限界を超え、デカップリングへ向かう米中の危うい未来。PLUS パックンがマジメに超解説「黒人暴行死抗議デモの裏事情」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

AIによる労働者の置換に懐疑的=米ミネアポリス連銀

ビジネス

欧州企業の7─9月期利益、6四半期ぶり低水準の見通

ビジネス

ECB総裁、ユーロの地位強化を提唱 「受動的な安全

ビジネス

米消費者、雇用懸念高まる 1年先インフレ期待悪化=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示す新たなグレーゾーン戦略
  • 2
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 3
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレクションを受け取った男性、大困惑も「驚きの価値」が?
  • 4
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 5
    【クイズ】イタリアではない?...世界で最も「ニンニ…
  • 6
    「それって、死体?...」新婚旅行中の男性のビデオに…
  • 7
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 8
    監視カメラが捉えた隣人の「あり得ない行動」...子供…
  • 9
    プーチン側近のマッド・サイエンティストが「西側の…
  • 10
    筋肉が育つだけでは動けない...「爆発力」を支える「…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 9
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 10
    イエスとはいったい何者だったのか?...人類史を二分…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中