最新記事

都市封鎖

混乱のインドネシア、感染対策より政治優先の知事が規制緩和 邦人は日本料理店「闇営業」で対立

2020年6月8日(月)21時20分
大塚智彦(PanAsiaNews)

闇営業の日本料理店に賛否両論も

一方、これまで「飲食業は宅配か持ち帰りに限定して営業可能」というPSBBの制限があったにも関わらず、外部からは見えないようにして裏口などから日本人客を迎えて密かに営業していた日本食レストランなどには、制限緩和を受けて「これで堂々と営業ができる」と歓迎する声が上がっている。

こうしたPSBBの規制期間中に「闇営業」していた日本食レストランに関しては、ジャカルタ在住の日本人や日本に一時帰国していると思われる日本人が、ネット上の掲示板で賛否両論を激しく戦わせていた(6月5日現在470件の投稿)。

「規制逃れは問題だ」「インドネシアのルールに従え」という批判派と「経営維持のため止むを得ない措置」「来店する日本人客がいる以上問題ない」などの擁護派が激論を交わしていたが、次第に誹謗中傷合戦の様相を呈し、日本人の間でも社会制限に対する不満やうっ積が飽和状態になっていることを暗にうかがわせていた。

社会制限の完全解除に向けた移行期間としての今回の緩和措置では、レストランや事務所などは通常の半数のお客、スタッフでの再開を認めるという「50%緩和」が当面適用される。だが市場やモールでは人数制限には限界があり、各店内は50%だが一歩外に出れば雑踏、人混みという状況が早くも市内の各所で出現している。

数字からみても緩和は時期尚早明らか

ジャカルタが規制緩和を発表した6月4日から7日にかけての3日間で首都の感染者に占める死者はわずか6人に留まっている。しかし感染者数は343人も増加している。1日平均で110人となるが、6日から7日の1日間で163人増加と1日の感染者数としては過去最多を記録している。その結果感染者・死者共にインドネシア全土の中でジャカルタは依然として最大規模となっているのだ。

こうした状況について国立インドネシア大学公衆衛生学部疫学科のトリ・ユニス・ワヒョノ学科長は「ジャカルタの状況はまだ感染防止策の緩和には早すぎる。感染拡大の危険は依然として存在する」と述べて、アニス州知事の判断に異を唱えている。

これは6日に開催されたオンライン上での討論会「規制緩和後の新常態の準備はできているか」でのトリ学部長の発言をテンポ紙が伝えたものだ。

トリ学部長はジャカルタでは最近の数字として1週間に約400人の新規感染者が確認されていることを指摘して「1週間の新規感染者数が100人前後に減少しない限り安全とは言えないし、ゼロになって初めて完全に安全であるとみなすことができる」との見解を示した。

要するに専門家から見ればジャカルタの現状は「完全に安全」どころか「安全」にも程遠い状況にあると指摘し、結果としてアニス州知事の規制緩和という判断に疑問を示したのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

WHO、成人への肥満症治療薬使用を推奨へ=メモ

ビジネス

完全失業率3月は2.5%に悪化、有効求人倍率1.2

ワールド

韓国製造業PMI、4月は約2年半ぶりの低水準 米関

ワールド

サウジ第1四半期GDPは前年比2.7%増、非石油部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中