最新記事

教育

教師の工夫で、授業の効果はここまで上がる

2020年6月3日(水)16時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

教員がどういう教え方をするかで、子どもの勉学嗜好や学力は変わってくる Rawpixel/iStock.

<子どもの学力は家庭環境に大きく左右されるが、かと言って現場の教師が「無力」なわけではない>

教育社会学者が手掛けている冷徹な仕事として、家庭環境と学力の相関分析がある。「学力格差」という言葉が広まっているので、どういう知見が出ているかは知られていると思う。富裕層の子弟ほど学力が高い。通塾費用の負担能力などの経済資本に加え、親が勉強を見てやる頻度、自宅の蔵書量といった文化資本も影響している。

「身も蓋もないことを」と眉をひそめられることが多いが、こういうデータは、不利な条件の家庭への支援を促すエビデンスにほかならない。現実を明らかにすることの重要性は、どれほど強調しても足りない。

しかし現場の教員にすれば、こうした事実(fact)を突き付けられたとき、驚きと同時に倦怠感(不快感)を抱くかもしれない。「子どもの学力は家庭環境に規定される、では自分たちの授業実践は無力なのか」と。

結論から言うと、そのようなことはない。子どもの勉学嗜好や学力は、教員の授業のやり方とも相関している。「理科の授業で、児童生徒の理解を促すべく、教師は色々な工夫をする」という設問への回答をもとに、小4児童と中2生徒を4つのグループに分け、理科嗜好と理科学力を出すと<表1>のようになる。IEA(国際教育到達度評価学会)の「TIMSS 2015」のデータだ。

data200603-chart01.jpg

小学生、中学生とも、工夫された授業を受けているグループほど、理科が好きという回答比率が高く、理科の平均点も高い。きれいな傾向だ。小・中学生のデータなので、理系の専門高校へのコース分けの影響はない。教員が授業の工夫に熱心なグループに、富裕層の子どもが多いとも考えにくい。教員がどういう教え方をするかで、子どもの勉学嗜好や学力は変わってくる、ということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

OPECプラス、6月日量41.1万バレル増産で合意

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「CT写真」で体内から見つかった「驚愕の塊」
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 10
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中