最新記事

韓国社会

韓国サッカーKリーグ客席にラブドール 問題は人形の種類だけでなかった

2020年6月4日(木)21時38分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

ラブドールだけが問題ではない?

そして、もう一つの理由は、国内の女性団体がこの問題を取り上げだし、大事に発展しそうだと踏んだからである。すでに、社団法人「韓国女性の電話」が、5月21日に公式抗議文を出して非難している。

「FCソウルのサッカースタジオに置かれた観客用マネキンは、30体中28体が女性のマネキンだった。」とし、「(世の中には、男性型マネキンや子供型マネキンもあるにもかかわらず)女性のマネキンばかり設置されていたこと自体が問題である。さらに、そのうちの10体がラブドールだった。FCソウル球団は、女性ファンを一体どのような存在として見ているのか」と抗議している。

レディースデーなどで女性ファンの集客にも力を入れていたFCソウルだけに、今回のトラブルへの批判は余計に強まったようだ。

ポルノNGの国

もともと、韓国は儒教的な倫理観が今も根強く、映画でも性的表現については制限が厳しい。ポルノなども基本的には禁じられており、ネットで海外のアダルトサイトにアクセスすることも遮断されているほどだ。

それだけに、韓国では数年前からラブドールをめぐる騒動が、これまで何度か起こっている。2017年に日本から輸入されたラブドールが、性的商品だと言う理由で仁川空港税関にて足止めを食らった。これに不服申し立てをし、なんと輸入業者は税関相手に訴訟を起こしたのだ。1審では敗訴したものの、最終的に最高裁判にて勝訴を勝ち取り、ラブドールは2019年7月から公式に韓国輸入許可が出されている。

もちろん、ラブドールの輸入許可に反対している女性団体は多く、ラブドールは強姦人形だと主張し、幾度も抗議デモが行われてきた。2019年10月に国会で開かれた「産業通商資源中小ベンチャー企業委員会」にて、イ・ヨンジュ議員がラブドールを持ち込み、自分の隣に座らせながら「産業的な側面から見て、対応する必要がある」と主張すると、女性議員や団体から抗議が殺到し、イ・ヨンジュ議員が公式謝罪を出した騒動もあった。

このように、ラブドールをめぐる問題は、韓国ではまだセンシティブなトピックであり、日本人から見ると大げさだと感じるほどの重い処罰を与えなければならなかったのだろう。

5月31日、この騒動後初めてのFCソウルホームスタジオ競技では、マネキンでなく、垂れ幕を座席に掲げられていた。FCソウルは、調査を怠って業者を信じ、任せきりにしてしまった責任として罰金を支払う一方、このマネキン納品業者へ詐欺罪の調査を警察に依頼しているという。

前代未聞のパンデミックに、各業界で柔軟な対応が求められている。事前調査や長所短所を吟味し決定する慎重派な日本に対し、韓国はフットワークが軽く、なんでも思いついたらやってみよう!という勢いがある国なのだが、今回のラブドール問題はそれが裏目に出てしまったようだ。

バレないと思ったのか、このご時世だから仕方ないと思ったのか、真意は定かではないが、これからしばらくは無観客開催の行事が増えるだろう。今後、スポーツや試合に全く関係のないことで話題に取り上げられることの無いように気を付けてもらいたい。

【関連記事】
・ドイツで知名度をあげたウイルス学者は、コロナ予防策への激しい反発にあっている
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・検証:日本モデル 西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」
・「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はいま......


20200609issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月9日号(6月2日発売)は「検証:日本モデル」特集。新型コロナで日本のやり方は正しかったのか? 感染症の専門家と考えるパンデミック対策。特別寄稿 西浦博・北大教授:「8割おじさん」の数理モデル

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中