最新記事

新型コロナウイルス

コロナ時代の不安は、私たちの世界観を変える

The Relief of Uncertainty

2020年5月7日(木)15時15分
デービッド・ファーリー(ニューヨーク在住ライター)

金曜日なのにひとけがないニューヨークの金融街(4月3日) MIKE SEGAR-REUTERS

<世界中を飛び回ってきた旅行記者がニューヨークでの外出自粛生活で得た「諸行無常」への気付きと解放感>

今日は5日に1度の買い出しの日。近所のスーパーマーケットを目指して、ニューヨークのウェストビレッジを歩いていると、アルベール・カミュの1947年の小説『ペスト』の一節を思い出した。

カミュは、ペストの大流行に見舞われた当時フランスの植民地だったアルジェリアのオラン市を、「疫病と石材と暗闇によって、あらゆる声が沈黙させられ、廃虚同然の状態」になったと表現している。

世界有数の大都市ニューヨークを覆う沈黙もまた、新型コロナウイルス感染症という目に見えない怪物の存在を、あらゆる場所に感じさせるサインだ。今や街は静まり返り、パンデミック(世界的な大流行)のパニックがこの街にやって来た当初に見られた大量のトイレットペーパーを抱えて歩く人も激減した。

代わりに街に響き渡るのはカラスの鳴き声だ。閉店中のゲイバーに貼り出された紙には、「カネがない客に売る酒なし」と書かれている。この異常事態に社会がパニックに陥り、略奪が起こるのを警戒してのことだろう。

数少ない歩行者は、お互いに十分な距離を取っているだけでなく、擦れ違う人を見ることさえしない。いや、むしろお互いから目をそらしている。まるで目が合ったら、ウイルスに感染するとでも思っているかのように。

だが、最も不吉な光景は、救急病院の外に止まった冷蔵トラックだろう。荷台後部の扉あたりは白く細長いテントに隠れていて、病院から遺体が運び込まれる様子が見えないようにされていた。いわば移動霊安室だ。

旅行や料理をテーマにライターをしている筆者の元に、出版社から「新型コロナがらみでない限り、しばらく旅行関連の記事を依頼することはない」というメールが届き始めたのは3月半ばのこと。こんなご時世だけに、さほど驚きはしなかった。

だが、こんなご時世でも、食べることには誰もが喜びを見いだす。今や自宅でパンや焼き菓子を作るのが大流行しているし、インスタグラムでは有名シェフがこぞってバーチャル料理教室を開いている。

リアルに迫る死の可能性

私たちが今、直面している極めてリアルな恐怖を考えると、1年前、あるいはわずか数カ月前でも自分が悩んでいたことに笑ってしまう。額の生え際が後退しつつあることに真剣に悩むような無邪気な時代だったのだ。

だが今は、文字通り文無しになったり、ホームレスになったりする可能性が限りなく身近な現実になっている。それだけではない。愛する家族や友人が死んでしまう恐れもある。もちろん自分自身も苦しい死を遂げる可能性がリアルに存在するのだ。

これが新しいアブノーマル(異常)の時代だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、FRB次期議長の承認に自信 民主党の支

ワールド

エプスタイン文書追加公開、ラトニック・ウォーシュ両

ワールド

再送-米ミネソタ州での移民取り締まり、停止申し立て

ワールド

移民取り締まり抗議デモ、米連邦政府は原則不介入へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 4
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 5
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中