最新記事

新型コロナウイルス

2メートルでは防げない、咳でできる飛沫の雲

Coughs Appear to Spread Saliva 19ft: Study

2020年5月20日(水)17時50分
カシュミラ・ガンダー

咳の飛沫は思いがけないところまで飛んでいく可能性もある DuxX/iStock

<咳についての新しい研究で、現在推奨されている2メートルの対人距離では安心できないことがわかってきた>

新型コロナウイルス対策として、現在は2メートルの対人距離をとることが推奨されている。だがウイルスなどの病原体を運ぶ可能性がある唾液の飛沫から身を守るうえで、果たして十分な距離といえるのだろうか──こうした疑いを裏付ける研究が発表された。

キプロスにあるニコシア大学の研究者は、咳と唾液に関する既存のデータを使用して、さまざまな条件下で唾液の飛沫が空気中をどのように移動するか、コンピューターでシミュレーションした。

科学誌「液体の物理学」に掲載されたこの研究によれば、人が咳やくしゃみをすると、唾液は飛沫となり、次に湿気をふくんだ温かいガスの雲のようなものになるという。

この実験モデルでは、野外の環境における風速、飛沫の大きさ、咳をしたときの人の口の形、咳の強さ、継続時間などの要素を計算に入れた。唾液の温度、人間の口内と外気の温度、そして相対湿度も考慮された。

コンピューターのモデルによって、風速毎時4〜15キロの環境下で、唾液の飛沫は最大約6メートル飛ぶことがわかった。空気中の飛沫の濃度とサイズは、風下では減少するように見えた。

IMAGE200520.jpg

こうした唾液の動きからすると、飛沫の雲の影響は、その場にいる人の身長によって異なる可能性がある。この論文によれば、「飛沫の雲は落下するため、その軌道内にいる背の低い大人と子供は感染のリスクが比較的高くなるかもしれない」という。

<参考記事>「咳やくしゃみの飛沫は4メートル飛び、45分間、空中に留まる」との研究結果

飛沫の雲の状態に注目

さらに、このモデルでは、風速が高いときよりも、風速が低いときのほうが、飛沫の雲が小さくなるスピードが遅くなった。この現象は、飛沫の雲の近くにいる人は、長時間飛沫にさらされることを意味するかもしれない。

「この研究結果から、環境条件によっては、2メートルの対人距離は感染防止に十分とはいえない可能性があることがわかった」と、論文は述べている。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策としてこの研究はどう活用できるのか。

「野外では、風速と環境条件によっては、空気中の飛沫が社会的距離として推奨されている2メートルをはるかに超える空間まで漂うことがわかった。この発見は重要であり、市民も政策立案者も、留意する必要がある」と、論文の共同執筆者であるニコシア大学理工学部および医学部のディミトリス・ドリカキス教授は本誌に語った。

「人がウイルスを運ぶ飛沫の雲のなかに入った場合、どれだけの量にどれだけ曝露したかで感染のリスクは変わってくると思われる。したがって、長い距離をとっているのに感染する可能性があるのはどういう状況か、よりよく理解することが重要だ。この研究は、こうした理解を深める役に立つ」

<参考記事>ランニングや自転車、飛沫は遠くへ 最低10メートル開けて──仏スポーツ省が要請

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日鉄、純損益を600億円の赤字に下方修正 米市場不

ビジネス

トヨタ、通期業績予想を上方修正 純利益は市場予想下

ワールド

EU、排出量削減目標を一部弱める COP30に向け

ワールド

民主3戦全勝、NY市長に34歳左派 トランプ氏2期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中