最新記事

感染症対策

新型コロナウイルス「再生産数」はなぜ重要か 感染第2波に警戒高まる

2020年5月17日(日)19時00分

新型コロナウイルス感染拡大の第2波の懸念が、新たな警告の段階に入った。ニューヨークで撮影(2020年 ロイター/Shannon Stapleton)

新型コロナウイルス感染拡大の第2波の懸念が11日、新たな警告の段階に入った。ドイツが経済再開に向けて暫定的な第一歩を踏み出したとたん、その数日後に再び、「実効再生産数」が節目の1を上回ったことが発表されたからだ。

再生産数とは何か、感染対策の経済封鎖を終えることの意味合いを理解する上で、これがなぜ重要なのかをまとめた。

再生産数とは何か

あるウイルスが1人の感染者から平均何人にうつるかを示す数値で、ウイルス感染状況の目安だ。数値が1なら、平均で患者1人が別の接触した1人に感染させることを意味する。

再生産数が示唆するものは何か

1を下回れば、流行が下火に向かっていることを意味する。1人が感染させる人数が1人未満だからだ。1を上回れば感染が急増していくことを意味する。1人から複数にうつしていくからだ。

1を超えると、病院や医療態勢が崩壊に向かいやすくなっていることも示す。

世界保健機関(WHO)の分析によると、中国・武漢では、流行が急拡大した初期のころは2.5前後だった。

算出はどれだけたやすいのか

算出は難しい場合があり、特に米国のように、国土が広く、人口統計学的に地域ごとのばらつきが大きい国ではなおさらだ。

米バンダービルト大学医療センターのウィリアム・シャフナー教授(予防医学・感染症)は米国の再生産数について、「モンタナ州の人口過疎地域では1を下回っても、都会では1か、1をやや上回るということがあり得る」と話した。

広範なウイルス検査能力が不足している場合も、再生産数の正確な測定を難しくする。

再生産数に影響する要因

人口密度は大きな要因だ。新型コロナウイルスは人口が過密な地域では、より簡単に広がる。ソーシャルディスタンス(社会的距離)、学校や企業の閉鎖、マスクの着用といった対策はことごとく、再生産数を下げるのに役立つ。

新型コロナウイルスの特質自体も大きく影響する。インフルエンザ・ウイルスなど他のウイルスよりも簡単に感染を広げる能力があることが分かっている。潜伏期間の中央値は約5日とインフルエンザの2日より長く、無自覚無症状の人が感染を広げることもできる。感染者が咳やくしゃみをしていないのに、濃厚接触者にうつしてしまう科学的根拠もある。

集団免疫の程度も、それが過去の感染によるものであれ、ワクチン接種の普及によるものであれ、再生産数に影響する。ただし、新型コロナで当局が承認したワクチンはまだないし、このウイルスは、そもそも人類にとって未知のものだった。

再生産数の上昇は憂慮すべきか

端的に言って、その通りだ。新たな感染急増を示唆し得るからだ。

新型コロナの流行抑制の成功例とされてきたドイツで再生産数が1.1に戻ったという11日のニュースは、パリの美容院から上海ディズニーランドに至る営業再開の動きや、米国各地での制限措置緩和の動きに暗い影を投げ掛けた。

シャフナー教授によると、米国では州や地方自治体の経済再開を始めるとの政治決断が既に相次いでいるが、警戒は必要。「解除を急ぎ過ぎれば、とたんに医療面の問題が増える。さじ加減は難しい。拙速に動くべきではない」と話した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいっている不思議
・東京都、新型コロナウイルス新規感染9人 54日ぶりにひと桁台に減少
・ニューヨークと東京では「医療崩壊」の実態が全く違う
・緊急事態宣言、全国39県で解除 東京など8都道府県も可能なら21日に解除=安倍首相


20050519issue_cover_150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月19日号(5月12日発売)は「リモートワークの理想と現実」特集。快適性・安全性・効率性を高める方法は? 新型コロナで実現した「理想の働き方」はこのまま一気に普及するのか? 在宅勤務「先進国」アメリカからの最新報告。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンドのレバレッジ、5年ぶり高水準=ゴール

ビジネス

英PMI、6月は予想以上に改善 雇用削減と地政学リ

ビジネス

アングル:三菱重工、伝統企業が「グロース」化 防衛

ワールド

アングル:イラン核開発、米軍爆撃でも知識は破壊でき
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中