最新記事

感染症対策

インドネシア政府、突然の陸海空の交通停止措置 帰国を予定していた邦人にも混乱

2020年4月24日(金)19時20分
大塚智彦(PanAsiaNews)

直前の決定に日本人にも不安拡大

しかし直前まで24日の帰国便が果たして離陸するのかどうかは確認できず、搭乗予定の日本人は眠れない夜を過ごすか、23日のうちにジャカルタ郊外のスカルノハッタ国際空港に向かい、空港で待機したという。

というのも24日からの帰省禁止とともにジャカルタと国際空港のある西ジャワ州など周辺地域は不要不急の車両の通行が禁止されたことから、帰国予定日本人の間から「空港に向かう車が検問などで止められる可能性があるのではないか、その場合の対応はどうするのか」などという問い合わせが大使館や旅行業関係者に相次いでいたのだ。

大使館では「もし検問で止められた場合は日本のパスポートと航空券を提示し、日本帰国のために空港に向かうと説明すれば問題なく通過できる」と説明した。

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないインドネシアでは、ジャカルタなどの主要都市、西ジャワ、中部ジャワ、東ジャワなどの地方自治体、各地の郡や県が独自の措置を含めて事実上の「都市封鎖」にあたる「大規模社会制限」を次々と実施。そこにジョコ・ウィドド大統領が24日からの都市部から地方などへの帰省、移動を全面的に禁止を発表した。

いずれも大都市で急増している新型コロナウイルス感染の地方都市への拡散を予防する措置としている。

感染拡大阻止策に実効性持たせるため

しかしこうした移動禁止措置に実効性をどうもたせるかが問われていたが、運輸当局は一部の例外を除き24日から全ての航空・船舶便の運休、長距離列車の運航停止、主要高速道の閉鎖と検問などという厳しい措置を打ち出し、帰省や旅行の禁止の順守を国民に求めた。

ただ、24日午前零時からの運航停止が正式に発表されたのが前日の23日の午後ということで、仕事で地方に滞在していたり、海外出張中のビジネスマンや帰省を予定していたりした国民にとってはあまりに突然の措置に「現地足止め」「帰省断念」を余儀なくされる事態となり、不満も高まっている。

ジョコ・ウィドド大統領が24日からの帰省禁止を明らかにした21日以降、長距離バスや列車のターミナルや国内線空港カウンターは「規制前の駆け込み帰省」で混雑していたが、23日夜には突然の運輸省による交通停止発表で日付が変わる前に帰省、移動しようとする都市部の住民などでさらなる混雑が発生した。

「あまりの突然の措置」との不満が在留日本人や都市部のインドネシア人からは出ているが、政府関係者などは「こうした措置は適宜実施しないと逆に混雑や混乱を招きそれが感染拡大につながる」と即断即決によって「駆け込み帰省や移動」を抑制する効果をも狙った方針であると、国民の理解と支持を求めている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

【関連記事】
・新型コロナウイルスは日光・高温・多湿で威力弱まる=米政府研究
・NY州民3000人検査で14%に抗体確認 新型コロナウイルス感染270万人か
・新型コロナウイルス感染症で「目が痛む」人が増えている?
・日本はコロナ危機ではなく人災だ


20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ウニクレディトなど欧州9銀行、ユーロステーブルコイ

ワールド

スイス中銀、政策金利ゼロに据え置き 予想どおり

ビジネス

日経平均は3日続伸、終値ベースの最高値更新 円安な

ビジネス

キリンビール、「東南アジア地域本社」設立 35年に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 7
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 8
    トランプの支持率さらに低下──関税が最大の足かせ、…
  • 9
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 10
    9月23日に大量の隕石が地球に接近していた...NASAは…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中