最新記事

医療

トランプ肝入りの抗マラリア薬、新型コロナウイルス患者の死亡率上げる恐れ

2020年4月22日(水)13時38分

トランプ米大統領が新型コロナウイルス感染症の治療薬として期待感を示す抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンについて、投与を受けた米退役軍人の治療結果を分析した査読前の論文がネット上で公開された。この論文によると、効果は全くなく、死亡リスクを高める恐れさえあるとの結果が示された。写真はコロナウイルスのサンプル。ミネソタ州ミネアポリスのミネソタ大学の微生物学研究所で3月撮影(2020年 ロイター/Craig Lassig)

トランプ米大統領が新型コロナウイルス感染症の治療薬として期待感を示す抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンについて、投与を受けた米退役軍人の治療結果を分析した査読前の論文がネット上で公開された。これによると、効果は全くなく、死亡リスクを高める恐れさえあるとの結果が示された。

研究は、退役軍人保健局(VA)の医療センターに新型コロナ感染症で入院し、4月11日までに死亡あるいは退院した退役軍人368人の医療記録を調べたもので、臨床試験の結果ではない。専門家による査読を経て医学ジャーナルに掲載される前の状態で公開された。新型コロナ感染拡大を受けて査読前でも研究結果を共有する動きが広がっている。

論文によると、標準的な治療に加えてヒドロキシクロロキンを投与された患者97人の死亡率が28%だったのに対し、投与を受けなかった患者158人の死亡率はこれよりも低い11%だった。ヒドロキシクロロキンと抗生物質アジスロマイシンを併せて投与された患者113人の死亡率は22%。

研究者らは、患者それぞれの症状を踏まえた上で、ヒドロキシクロロキンを投与した場合、投与しない場合と比べて死亡するリスクが2倍以上に高まったと算出した。

また、ヒドロキシクロロキンの投与を受けた患者の13%が人工呼吸器が必要になったのに対し、投与を受けなかった患者の同割合は14%と、ほとんど変わらないこともわかった。

ロサンゼルスのシダーズ・サイナイ医療センターで肺疾患を専門とするジェレミー・ファルク医師は「過去1─2週間で出された複数の論文はヒドロキシクロロキンの有効性に疑問を呈している」と指摘。「当初はどの患者にも同薬を使っていたが、今は使用をやや控えるようになった」と述べた。同医師は退役軍人保健局での研究に関与していない。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・「ストックホルムは5月には集団免疫を獲得できる」スウェーデンの専門家の見解
・日本がコロナ死亡者を過小申告している可能性はあるのか?
・アメリカの無関心が招いた中国のWHO支配
・シンガポール、新型コロナ感染1日で1426人と急増 寮住まいの外国人労働者間で拡大


20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中