最新記事

新型コロナウイルス

緊急事態宣言、東大留学生たちの決断「それでも僕は東京に残る」

2020年4月8日(水)18時00分
スペンサー・コーヘン(東京大学大学院修士課程) 

毎日ほぼ自宅から出ず、窓際のテーブルで過ごしているという留学生のコーヘン氏 Spencer Cohen

<ニューヨーク市で生まれ育ち、現在は東京大学大学院で学ぶコーヘン氏が語る、東大で学ぶ各国の留学生たちが日本に残ると決意した理由>

ついに安倍政権が緊急事態宣言を発令した。僕はこのときを、ここ東京でやきもきしながら待ち続けていた。こうしたトップダウンによる措置でしか、東京が僕の故郷・ニューヨークで起きているような惨劇に陥ることを避ける方法はないと思っていたからだ。

僕が生まれ育ったニューヨークは、いま封鎖状態にある。医療体制は限界を超えて疲弊し、目抜き通りから人が消え、代わりに遺体安置所には次々と人が運び込まれてくる。病院では遺体袋が足りず、サイレンの音だけが一日中鳴り止まない。

セントラル・パークの芝生の上には「野戦病院」さながらのテント式施設が設営された。この芝生は、僕が小さいころに野球をしたり、友達と寝転んだり、両親と散歩をしてきた場所だ。

ニューヨークは今や戦地のようなありさまで、医療従事者たちは兵士、アンドルー・クオモ州知事は司令官だ。僕はフェイスブックを通じて、ニューヨークの病床にいる知り合い達の映像をいくつも見たが、それらは内臓をえぐるような咳で何度も中断された。

マンハッタンで暮らす家族や友達は、自宅に閉じこもり続けている。2人の祖母は、1カ月以上も玄関の外には一歩も出ていない。

警戒心を持っているのは高齢者層だけではない。ビデオチャットをつなぐと、僕の大学生の弟は見たことのないひげ面で現れる。弟は、家族で住むアパートから20日以上も外出していない。大学を卒業したばかりの友人は、イーストビレッジのアパートから週に一度だけ散歩のために外に出るという。

自分の故郷が悪夢のような危機に転落していくのを横目で見ながら、僕は毎日家にこもり、窓際の小さなテーブルの前に座って、物を書いたりしながら過ごしてきた。

本当にたまに外に出て歩いてみると、カフェは満席で、通りにはたくさんの人が行き来し、地下鉄の駅は相変わらず混雑していたようだった。

最近になってようやく通りや地下鉄から人が少なくなったように見えるが、自宅の扉の外に今も広がっているいつもの「日常」にひどく驚いた。

日本では緊急事態宣言が出された今でさえ、ニューヨークのように不要不急の外出をしたり6フィート(約1.8メートル)の社会的距離を保たなかった人に、罰金を課すなどの厳戒態勢にはなっていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

焦点:「ドルサイクル」転換の年に、トランプ氏復帰で

ビジネス

アングル:中国の小規模銀行再編、健全化の道遠く 統

ビジネス

日本生命、医療データ分析のMDVにTOB 1株16

ビジネス

焦点:問われるFRBの独立性、理事解任訴訟 最高裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中