最新記事

東南アジア

武装組織襲撃で外国人含む3人死傷 独立運動で治安悪化が続くインドネシア・パプア

2020年4月1日(水)12時31分
大塚智彦(PanAsiaNews)

ジョコ大統領は強硬派と対話路線派の板挟みに

こうしたパプア治安情勢の悪化に対し、ジョコ・ウィドド大統領は有効な解決手段を未だに見いだせず、元国家警察長官の内務相や国軍幹部だった国防相や大統領首席補佐官らを中心とする「パプア問題への強硬対処派」と、「福祉充実による対話路線という柔軟姿勢」を主張するイスラム教指導者でもある副大統領らの板挟み状態となっているのが現状だ。

3月28日、主要メディアのテンポ電子版は「パプア問題で対話を始めるべきだ」との記事を掲載し、ジョコ・ウィドド大統領に指導力を発揮して新たな特別チームを創設してパプア問題の解決に向けた対話を早急に始めるべきだと主張した。

提言は、対話には現地行政当局だけではなく全てのパプア人の権益を代表するメンバーを加えること、また道路建設や教育環境の整備といった目に見えるインフラだけでなく、治安部隊の縮小やこれまでの治安部隊によるパプア人への数々の人権侵害事件に対する真相解明などのアプローチが必要不可欠になる、といった内容になっている。

特に2019年のパプア地方の経済成長はマイナス15.7%という厳しい経済状況にあることに鑑みて、経済面での支援を拡大するためにも新アプローチでパプアの人々に政府としての正義を示し、パプアの人々の信頼を得ることから始めなくてはならないと厳しく指摘している。

新型コロナウイルスの問題にパプアは埋没

インドネシア政府は今、新型コロナウイルスの感染拡大の対策で連日手一杯な状況で、他の政策や課題に取り組んでいる余裕も時間もない。そうした事態のなか感染症対策とはいえ海路、空路の交通を遮断して州全体を「封鎖」しているパプア地方で一体なにが起きているのか、政府も地元マスコミも関心が薄れているのが偽らざる実況だ。

そうした情報途絶に近い状態の中で、増強された治安部隊による武装組織掃討の名目で住民への人権侵害事案が増えているとの情報もある。そんななか発生した今回の武装グループによる襲撃事件は「忘れられようとしているパプア問題」への注意喚起、世論の注目を狙ったものという見方も浮上している。

コロナウイルス問題とともにパプアの治安問題はジョコ・ウィドド大統領に待ったなしの緊急対応を迫っている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



cover200407-02.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月7日号(3月31日発売)は「コロナ危機後の世界経済」特集。パンデミックで激変する世界経済/識者7人が予想するパンデミック後の世界/「医療崩壊」欧州の教訓など。新型コロナウイルス関連記事を多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ブラジルのコーヒー豆輸出、10月は前年比20.4%

ビジネス

リーガルテック投資に新たな波、AIブームで資金調達

ワールド

ナイジェリアでジェノサイド「起きていない」、アフリ

ワールド

世界で新たに数百万人が食糧危機に直面、国連機関が支
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中