最新記事

中国

志村さん訃報で広がる中国非難の中、厚労省の「悪いのは人でなくウイルス」は正しいのか

2020年4月1日(水)11時20分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

そして習近平は政権スローガンの一つである「人類運命共同体」を掲げて、まさに「ウイルスに国境はない」と豪語している始末だ。

この言葉と厚労省が言っている「決して人が悪いわけではなく、ウイルスが悪い」という言葉は、類似ではないだろうか?

つまり、厚労省は、「習近平が言って欲しい言葉」を復唱してあげていることになるのだ。

アメリカは

アメリカの感染者がどこまで増えるのか分からないが、現時点での増加曲線の増加率から見た場合、残念ながらもっと増えていくであろうことが推測される。絶対数も全世界で最多だ。中国のピーク時の感染者累積81,518人の2倍を超えるのは確かで、中国の総人口が14億であるのに対してアメリカの人口が約3.3憶人であることを考えると、人口当たりの罹患率の違いには凄まじいものがある(アメリカ4.87、中国0.59で、アメリカの「人口から見た罹患率」は中国の約8倍)。

ということはアメリカが受ける経済的ダメージは中国とは比較にならないことになる可能性がある。

アメリカが受けているダメージに対して、アメリカでは「中国政府の対応の遅れが感染を広げ、損害を被った」として、中国政府を相手取り、集団訴訟を起こす動きが出ている。カナダ発の「テドロス辞めろ」署名活動の輪も徐々に広がっている。

これでも日本は「人が悪いわけでなくウイルスが悪い」として、中国を擁護し続けるのか。

コロナ災禍が過ぎ去った後、世界は習近平を犯罪者として追及するかもしれない。

その勇気がなかった時、中国はアメリカを超えて、コロナ後の新しい世界秩序を形成していく危険性を孕んでいる。言論を弾圧する一党支配体制が世界に君臨する。そのような未来像は見たくないが、目の前に迫っているのだ。それでいいのか。

日本人の本当の良心と見識はどこにあるのかを問いたい。

なお、私の子供がまだ小さかったころ、最初にテレビを観て声を上げて笑ったのは、志村けんが出ている番組だった。「こんなに喜ぶんだ」、「このおかしさが分かるんだ」と、驚いたものである。仕事をし続けていた私は、以来、志村けんに「子守り」をしてもらったものだ。

その志村さんの命を奪ったのは誰か。人の運命は分からないとしても、コロナがなかったら、こんなことにはなっていなかったはずだ。それを考える理性を持ち悲しみと思いを抱くことは「ヘイト」とは無関係だろう。静かにご冥福を祈る。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ

ビジネス

アップル、関税で今四半期9億ドルコスト増 1─3月

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P8連騰 マイクロソ

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント財務長官との間で協議 先
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中