最新記事

新型コロナウイルス

緊急公開:人類と感染症、闘いと共存の歴史(全文)

MOVING TOWARD PLANETARY HEALTH

2020年3月30日(月)18時50分
國井修 (グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)

未知の病原菌が出現し始めた

もちろん、今やるべきことは、流行の拡大を抑えること。特に、オーバーシュート(感染爆発)を防ぐことだ。2月24日に日本の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が、「今後1~2週間が感染拡大のスピードを抑えられるかどうかの瀬戸際だ」という見解を示し、データ上は拡大のスピードを抑えられたように見えている。

しかし、その後、流行拡大の中心は欧米に移り、今、まさに各地でオーバーシューティングが発生している時期である。

もはやウイルスを封じ込めることができそうにないが、このまま感染が拡大したらどうなるのだろうか。それを考える際に、感染症の歴史から学べることはないだろうか。

人類の歴史は感染症との闘いともいわれる。メソポタミア時代、既に疫病は四災厄の1つに数えられ、古代エジプトを含むさまざまなミイラのゲノム解析などから、天然痘など感染症との闘いの跡が見える。

感染症は歴史上、戦争を超える犠牲者をもたらしたといわれる。第1次大戦の死者1600万人、第2次大戦の死者5000万~8000万人に比べ、1918~1919年に大流行したスペインインフルエンザでは5000万人が死亡。

ペストは何度も世界的大流行(パンデミック)を記録し、特に14世紀にヨーロッパを襲った「黒死病」と呼ばれる大流行では、推計死者数は1億人に上るともいわれる。

ほかにも世界で7回のパンデミックを起こしているコレラ、強い感染力と致死力でインカ帝国やアステカ帝国を滅ぼした天然痘、「現代の黒死病」と呼ばれ、治療しなければ致死率が100%近かったエイズなど、「恐ろしい感染症」はたくさんある。

これらに対する医療技術や医学の進歩はつい最近のことである。初めてのワクチン開発が1798年、細菌の発見が1876年、抗生物質の発見が1928年で、わずか100~200年前の出来事だった。

このような治療薬やワクチン、診断法の開発、また公衆衛生の改善によって、人間は感染症との闘いで優位に立てるようになった。感染症を征服できるとの認識も高まり、1967年には米公衆衛生局の医務総監が「今後、感染症の医書をひもとく必要はなくなった」と述べている。

「勝率」を上げるだけでなく、「完勝」するための根絶計画、すなわち患者をゼロにし、病原菌をこの世から完全に排除する努力も行われた。そして、完全試合が成功した。1980年に根絶宣言をした天然痘である。

そして、次の完全試合として、小児麻痺を引き起こすポリオをターゲットにした。ところが、1970年頃より人類が遭遇したことのない未知の病原菌がこの世に出現し始めた。

ウイルスでは、SARS、エイズ、ジカ熱など、細菌では、腸管出血性大腸菌感染症(O157)、レジオネラ肺炎、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA)など、寄生虫ではクリプトスポリジウム症、プリオン(蛋白質性感染粒子)ではクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)などがある。

ポリオという1つの病原菌を根絶する前に、40以上の新たな感染症がこの世に出現してしまったのだ。この多くは人獣共通感染症とも呼ばれ、もともと野生動物などにすんでいた微生物がヒトに感染したものだ。SARSはコウモリ、ラッサ熱は野生げっ歯類、高病原性鳥インフルエンザは水禽類(カモなど)が宿主と考えられる。

古くから分かっている病気も含めると、人獣共通感染症はWHOで確認されているだけでも150種類以上ある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、方向感欠く取引 来週の日銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中