最新記事

感染症対策

新型コロナ、急がれる医薬品開発──抗ウイルス薬やワクチンがなかなかできないのはなぜ?

2020年3月25日(水)12時50分
篠原 拓也(ニッセイ基礎研究所)

さらに、医薬品メーカーの中には、新型コロナから回復した患者の血液に含まれる抗体を活用した新薬開発に取り組む動きも出てきている。これは、「血漿(けっしょう)分画製剤」と呼ばれる医薬品だ。臨床試験を早期に開始して、9ヵ月から18ヵ月程度で終える計画、と報道されている。

ただし、こうして作られた医薬品の効果を見極めることは簡単ではない。仮に医薬品を投与された患者の病状が軽快したとしても、それが医薬品によるものなのか、それとも医薬品とは別に安静に療養していたことで快方に向かったものなのか、よくわからないためだ。このため、臨床試験の結果は、効果と副作用の有無について、慎重に判断していく必要があるものとみられる。

ワクチンの開発も容易ではない

ウイルス性の感染症では、予防のためにワクチンを接種することが有効となる。かつて蔓延した、はしか、水痘、おたふくかぜ、ジフテリア、ポリオ、破傷風などの病気は、ワクチンの予防接種が浸透して9割を超える人が免疫をもつようになっている。

ワクチンには、はしかのように予防接種で免疫を獲得すれば二度とかからないようにできるものもあるが、インフルエンザのように予防接種をしても感染してしまうものもある。ただ、その場合でも、感染後にあまり重症化しないで済むといった効果が期待できるため、ワクチンとしての有効性はある。

ワクチンのタイプとして、生きた原因微生物を発症しない程度に弱毒化したうえで使用する「生ワクチン」と、微生物の全体または一部を感染しないように無毒化して免疫を獲得する「不活化ワクチン」がある。

生ワクチンは、弱毒化したとはいってもわずかに発症のリスクが残るため、免疫不全者や妊婦には使用できない。はしか、水痘、おたふくかぜなどに対しては、生ワクチンが用いられる。

一方、不活化ワクチンは、発症のリスクはなく免疫不全者や妊婦にも使用できるが、獲得できる免疫が限られていて、その持続期間も生ワクチンに比べて短い。ジフテリア、ポリオ、破傷風などに対しては、不活化ワクチンが用いられる。

どちらのワクチンにしても、発症のリスクを減らす、もしくは無くす一方で、免疫を獲得できることが求められる。ワクチンの開発では、新薬と同様に、ワクチン候補について臨床試験で有効性と安全性を確認することが必要となる。

政府は、今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、海外の研究機関等とも連携して、ワクチン開発を進めることを表明している。しかし、ワクチンの専門家からは、ワクチン候補ができても、臨床試験を実施して有効性と安全性を確かめて、国の承認を得て実用化するまでには、何年もかかるとの声もあがっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中