最新記事

新型コロナウイルス

イランで感染を広めたのは「世界一のおもてなし」?

Iran’s Mysterious Infections

2020年3月19日(木)17時00分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)

イランとイラクの国境を通過する人の体温検査をする医療スタッフ ESSAM AL SUDANI-REUTERS

<感染がイランで急拡大した背景には、中国との密接な関係に加えて、社交スタイルや大気汚染、医療機器・薬の不足がある>

イランで新型コロナウイルスが2月下旬から急激に広がっている。マスコミや専門家が警鐘を鳴らした日本と対照的に、イランは感染の蔓延をひとごとと考えていたようだ。

イランは経済制裁の最中にあり、日本や欧米からの輸入が厳しく制限されているが、エネルギー資源は言うまでもなく畜産・農産物もほぼ自国で賄える。ただ電化・工業製品などは輸入に頼らざるを得ない。そこで密接な関係を築いているのが中国である。

経済制裁下であっても中国からの輸入は止まっておらず、むしろ中国依存はここ2~3年で非常に強まっている。実際、イランの大企業では多くの中国人が働いている。また南部の油田には多くの中国人労働者がいる。つまりイラン国民と非常に近い距離で生活している。中国との航空路線は武漢市で感染が広がり始めた時も一切止められなかった。このため、春節で帰郷した中国人がイランに戻る際にウイルスを持ち帰ってしまったことは容易に想像できる。

では、なぜこれほどまでに急速に感染が広まったのだろうか。聖地コムで聖人を祭る廟に巡礼者が唇や手を触れるため感染が広がったという説もあるが、それだけでは説明できない。中国との密接な関係に加えて、私は複数の要因を挙げたい。イラン人の社交スタイル・大気汚染・医療機器と薬の不足である。

経済制裁が生んだ悲劇

イラン人は概して社交的で寂しがりやだ。大勢で集まっておしゃべりに花を咲かせ、一緒に歌い踊るのが好きな人々である。「世界一のホスピタリティーの国」とも称され、あまり知らない遠い親戚、友達の友達でもお構いなしに仲間に入れ、老若男女の別なく夜遅くまで楽しむ。若者たちは毎週末パーティーを開く。皆、出会いと別れ際に両頰でのキスとハグを欠かさず、別れの挨拶は優に30分かける。

この人たちの輪にウイルス保持者が加わったら、参加者の感染は免れないだろう。他国と同様に若者の発症リスクは低いが、彼らはあまり病院に行かないし感染予防の意識も低い。風邪くらいではマスクもしたがらない。弱々しくてカッコ悪いと考えるからだ。

そのような若者が感染し、リスクの高い人と濃厚な挨拶をすれば重症者が出る。イラン人自身もこの挨拶が感染拡大の要因であると考え、肘や足での挨拶を欧米に先駆けてはやらせている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政府系ラジオ・フリー・アジア、中国向け放送を再開

ビジネス

米テスラ、加州の販売停止回避 「オートパイロット」

ワールド

豪サントス、主要事業終了で10%人員削減へ 通期利

ワールド

対米投融資1号案件の人工ダイヤ事業、旭ダイヤやノリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 8
    極超音速ミサイルが通常戦力化する世界では、グリー…
  • 9
    アメリカが警告を発する「チクングニアウイルス」と…
  • 10
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中