最新記事

新型コロナウイルス

新型肺炎ワクチン開発まで「あと数カ月」、イスラエルの研究機関が発表

VACCINE HOPES

2020年3月10日(火)19時50分
カシュミラ・ガンダー

日本でも3月5日、大阪大学と民間企業が共同で新型コロナウイルスの感染予防用DNAワクチンの開発に乗り出すと発表。写真は大阪大学の森下竜一教授  REUTERS/Issei Kato

<世界各地で開発の動きが競うように進んでいる。他のワクチンの応用で記録的スピード開発の可能性も。本誌3月17日号の特集「感染症vs人類」より>

世界で死者3400人以上、感染者は10万人を超えた新型肺炎COVID-19。そのワクチン開発まで「あと数カ月」との見込みをイスラエルの研究機関が明らかにした。mag20200317coversmall.jpg

新型肺炎のウイルスはSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)と同じコロナウイルスの一種だ。イスラエルの研究機関ミガルは2月27日、鳥が感染する鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)用に開発したワクチンの有効性が前臨床試験で証明されたとの声明を発表。

IBVは新型コロナウイルスと遺伝子コードが似ており、感染メカニズムも同じと判明している。「ごく短期間で有効なヒト用ワクチンを開発できる公算が高い」と言う。

研究者らはIBV用ワクチンを新型ウイルス用に調整し今後、試験管内または生体内試験を行って安全基準クリアを目指す構えだ。これにより「新型肺炎の世界的な感染拡大に対抗するワクチンの生産開始が可能になる」と期待していると言う。

ミガルのダビド・ジグドンCEOは「ヒトコロナウイルス用ワクチンの開発が世界的急務となっており、開発加速に全力を尽くす」と語った。「8~10週間で開発、90日で安全基準をクリアしたい。一般市民が利用しやすい経口ワクチンになるだろう。臨床試験を加速させ、最終製品開発と認可手続きを促進するべく、パートナーと集中協議している」

イスラエルのオフィル・アクニス科学技術・宇宙相は、「これを突破口に開発が急速に進み、COVID-19の深刻な脅威に対応可能になるはずだ」と研究チームをたたえた。

米ジョンズ・ホプキンズ大学医療安全センターのアメシュ・アダルジャ上級研究員によれば、鳥用ワクチンのヒトコロナウイルスへの適用は可能だ。「有効かつ安全と証明されれば、鳥用ワクチンの製造設備を利用し急ピッチでの量産が可能」だが、「問題は臨床試験を迅速に実施して有効性を証明し、規制当局の認可を確実に得ることだ」と言う。

バイオ企業や医薬品大手も

ミガルの発表は、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長が「ヒト用ワクチンの実用化には最低でも1年~1年半かかる」と語った翌日のことだった。ファウチが1月下旬に明らかにしたように、NIAIDの新たな研究チームも3カ月でヒトでの予備試験を実施し、ワクチン開発の記録更新を目指している。

イギリス、中国、ドイツ、ロシア、オーストラリアの研究機関、アメリカのイノビオやモデルナなどバイオ企業や医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソンなどもワクチン開発に乗り出している。

だがワクチン開発には何年もかかる可能性がある。SARS(2002年出現)とMERS(12年)のワクチンは未開発。エボラ出血熱の場合は初の症例確認から43年後の19年12月にようやく認可された。

アダルジャは1月、ワクチンの開発が加速していることから、「数カ月」で第1段階の臨床試験開始もあり得ると語った。ワクチンを開発するには感染を防ぐ免疫反応を促進する的確な標的を突き止める必要があると、アリゾナ州立大学のウイルス学者ブレンダ・ホーグ教授は言う。

「ワクチンのプラットフォーム候補を特定したら研究開発に入る。安全・品質・有効性の要件をクリアした後、動物実験を含む前臨床試験を行い、ようやく臨床試験に進む。ヒトでの臨床試験は普通4段階で、さらに安全性・有効性・投与量を評価する」

ホーグによれば「通常ワクチンの開発・認可には何年もかかる」が、「既にSARSとMERSのワクチン開発は相当進んでいる。COVID-19用ワクチン開発の手引きとなり、開発促進にも役立つはずだ」

<2020年3月17日号「感染症vs人類」より>

【参考記事】新型コロナウイルス対策第2弾に総額4308億円  PCR検査10億円など配分
【参考記事】新型コロナ日本感染ルーツとウイルスの種類:中国のゲノム分析から

20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症VS人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、印への対戦車ミサイル・誘導砲弾売却承認 930

ビジネス

金利正常化は「適切なペース」で、時期は経済・物価見

ビジネス

PB目標転換「しっかり見極め必要」、慎重な財政運営

ワールド

中国、日中韓3カ国文化相会合の延期通告=韓国政府
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中