最新記事

アメリカ社会

人気の大統領だったのにオバマの命名運動が振るわない理由

THE PRESIDENTIAL NAMING GAME

2020年3月4日(水)18時10分
スティーブ・フリース(ジャーナリスト)

magw200304_NamingGame3.jpg

ハワイのサンディ・ビーチの改名案が撤回 EDUCATION IMAGES-UNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

オバマの伝記を書いたデービッド・ギャローによると、右派にとってのレーガン同様、オバマも左派にとってはアイコン的な存在だが、退任後の事情の違いがそれぞれの伝説づくりに影響を与えているという。レーガンの場合は、副大統領だったブッシュ父が後を継いだおかげで、業績が汚されることもなく、ノークイストら支持者はその名を残す運動に専念できた。

一方オバマは、共和党の大統領であるドナルド・トランプが通称オバマケア(医療保険制度改革法)からイランの核合意まで、オバマの業績を全てひっくり返すことに執念を燃やしている。ヒラリー・クリントンが大統領選に勝っていたら事情は違っただろうと、ギャローは言う。

レガシーづくりに無関心?

ノークイストもそれを認めつつ、レーガンの場合は退任後にアルツハイマー病を公表し、公の舞台から退いたことも大きいと指摘する。オバマは今後まだ数十年、一定の影響力を持ち続ける可能性がある。公人としてのキャリアが終わったら「共和党も民主党も改めてその業績を振り返って評価し、その名を残そうという気になる」が、オバマは終わっていない、というのだ。

もっともこの説が当てはまらないケースもある。昨年11月にはトランプが「アメリカ史上最も著名な大統領の1人となるのは間違いない」として、旧国道ルート66の一部区間にその名を冠する法案がオクラホマ州議会に提出された(後に撤回)。また2012年にはアーカンソー州リトルロックの空港にクリントン夫妻の名が付けられたが、このときまだヒラリーは国務長官で、4年後に大統領選に出馬している。

オバマの場合は、神格化の拠点となるべき記念図書館が物議を醸したこともマイナスになった。レーガンもブッシュ父子も、クリントンも、退任後にその名を冠した図書館が鳴り物入りでオープンしている。記念図書館の開館式は、退任後の大統領が政治の領域から歴史の領域へと移行するための重要なセレモニーだ。

だがオバマは別のモデルを選んだ。伝統的な大統領図書館のような国立公文書館との正式なつながりのない、約7万7000平方メートルの「オバマ大統領センター」をシカゴ市内の公園で独自に運営する予定だ。ただ、実際の大統領の記録の所蔵ではなく、3000万ページに及ぶ非機密文書をデジタル化してオンラインで利用できるようにするという。さらに次世代のリーダー育成という「オバマの政治運動」にも公共エリアが使われるとの批判から、市民団体がシカゴ市を提訴。センターの着工のめどは立っていない。

一方、レーガンのレガシープロジェクトは万事順調。自分たちはルールを心得ているから相談されればアドバイスできる、とノークイストは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米有権者、民主主義に危機感 「ゲリマンダリングは有

ビジネス

ユーロ圏景況感3カ月連続改善、8月PMI 製造業も

ビジネス

アングル:スウォッチ炎上、「攻めの企業広告」増える

ビジネス

再送-ユニクロ、C・ブランシェットさんとブランドア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 4
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 5
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 6
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中