最新記事

ウイルス

エボラ、SARS、MERS......コウモリはウイルスを増殖させるインキュベーターだった

2020年2月13日(木)18時00分
松岡由希子

「ウイルスの宿主としてコウモリは特別である」 chuvipro-iStock

<頑強な免疫系を持つコウモリの激しい免疫応答に順応するべく、ウイルスは、より速く増殖するよう進化することがわかった......>

重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすSARSコロナウイルス(SARS-CoV)や中東呼吸器症候群(MERS)の病原体MARSコロナウイルスのほか、エボラウイルス病、マールブルグ病などのウイルス性出血熱を引き起こすウイルスは、いずれもコウモリが自然宿主ではないかと考えられている。

2019年末以降、中国を中心に世界各地で感染が広がっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についても、「感染者5名から検出されたウイルスのゲノム(全遺伝情報)の配列がコウモリのコロナウイルスと96%同じであった」との研究結果が発表されている。そしてこのほど、これらのウイルスがコウモリ由来であるのは偶然でないことを示す研究成果が明らかとなった。

コウモリがウイルスを増殖させる「インキュベーター」となる

米カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは、2020年2月3日、オープンアクセス誌「イーライフ」において、コウモリの免疫系とウイルスの進化とのメカニズムを解明する研究論文を発表した。

これによると、頑強な免疫系を持つコウモリの激しい免疫応答に順応するべく、ウイルスは、より速く増殖するよう進化する。いわば、コウモリが、感染力の高いウイルスを急速に増殖させる「インキュベーター(保育器、孵卵器)」となるわけだ。このようなウイルスが、ヒトを含め、コウモリのような免疫系を持っていない哺乳類に侵入すると、「宿主」を圧倒し、強い毒性をもたらすこととなる。

「ウイルスの宿主としてコウモリは特別である」

研究論文では、このメカニズムの根拠となる実験結果を示している。研究チームは、エボラウイルスとマールブルグウイルスの疑似ウイルスを用い、エジプトルーセットオオコウモリ、クロオオコウモリ、アフリカミドリザルの細胞株への感染力を比較した。

その結果、アフリカミドリザルの細胞株はウイルスに圧倒されて死滅した一方、2種類のコウモリの細胞株では、ウイルスなどの異物の侵入を妨げるインターフェロン応答により、細胞をウイルス感染から防御した。

また、このようなインターフェロン応答により、感染は長引いたという。研究論文の筆頭著者であるカリフォルニア大学バークレー校のカラ・ブルック博士研究員は「コウモリのインターフェロン応答機能は、結果として、コウモリの体内でウイルスが生き残ることを助けているようだ。強い免疫応答を持つコウモリが自らの細胞を感染から防御する一方で、ウイルスは宿主に害を与えずに増殖率をあげる」と考察している。

カリフォルニア大学バークレー校のマイク・ブーツ教授は「ウイルスの宿主としてコウモリは特別である」とし、「多くのウイルスがコウモリから来ていることは偶然ではない」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中