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ウイグル人迫害を支えるDNAデータ収集、背後に米企業の陰

U.S. Technology Used in Uighur Surveillance

2020年2月27日(木)17時30分
ジェシカ・バッケ(チャイナファイル編集主任)、マレイク・オールベルグ(メルカトル中国研究所アナリスト)

2017年には、米医療機器メーカー、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィックが新疆の警察に遺伝子解析機器を販売していることに対し、米議会とヒューマン・ライツ・ウォッチが懸念を表明。同社の技術が住民のDNA収集に利用されることが、人権とプライバシーの侵害に当たるのではないかと指摘した。

サーモ・フィッシャーは2019年に、新疆への機器販売を停止した。自社の倫理規範に従ったと説明したが、中国のほかの地域への販売の継続については言及しなかった。

兵団公安局は2015年、新疆にあるプロメガの販売代理店「杭州欣越生物科技有限公司」経由で同社のパワープレックス21の購入を計画。調達関連文書によれば、DNAのごくわずかな痕跡から全国規模のDNAデータベースに登録できるほど質の高い記録を作成するのが狙いだった。

そこまで精度の高い機器はほかになかったため、兵団公安局は単独調達通知を発行し公共入札の手間を省いた。7日以内に反対がなければ購入できたはずだ(プロメガは取材に対してノーコメント)。

その直前数カ月の文書からは、兵団公安局が中国公安省物証鑑定センターと共同で「DNAデータベース構築プロジェクト」を計画していたことがうかがえる。中国公安省は既にFBIが犯罪や行方不明者の捜査に利用しているような大規模なDNAデータベースを保有。そこに一般のウイグル人のデータが加われば、差別と迫害に苦しんでいる人々の人種プロファイリングが可能になりかねない。

悪用させないためには

2015年に公安系機関誌に掲載された論文は、より大規模で質の高いDNAデータベースとデータマイニングを組み合わせれば、当局が行動を「予測」し「ハイリスク集団の早期警戒警報」を出すのに役立つと主張している。

確かにこうした機器を購入しても何に使うかは分からないと、ジョン・ジェイ・カレッジ法学部のラリー・コビリンスキー学部長は言う。DNA分析装置には、犯罪捜査、診断、治療、系譜学などさまざまな使い道があるという。同時に「民族を特定するのに使うのを止めることもできない。どんなものも乱用される恐れはあり、偉大なツールが悪用される危険はある」

プロメガの公式サイトには、遺伝子情報をウイグル人など中国の少数民族の識別に利用する方法に関する学術論文の概要が掲載されていた(既に削除)。プロメガとサーモ・フィッシャーの装置を使い、新疆のコルラ市で採取したウイグル人211人のDNAサンプルを、説明に基づく同意を得た上で調べたという。

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