最新記事

事件

フィリピン政界、謎の連続殺人 非公開麻薬関連リストで広がる疑心暗鬼

2020年2月25日(火)19時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

地方政府幹部も相次ぎ射殺

ドゥテルテ大統領が就任した直後の2016年11月には中部レイテ島アルブエラ市のローランド・エスピノザ市長が刑務所内で射殺されている。同市長は麻薬犯罪容疑者のリストに自分の名前が記載されているとして危険を感じて自ら出頭して収監されていた。刑務所内の房の検査に来た刑務官に突然発砲したためその場で射殺されたのだが、なぜ房内で拳銃を所持していたのかは謎だった。

また2019年10月25日には西ミサミス州クラリ町のダビット・ナバロ町長がセブ州グアラダルーペの検事局へ護送される途上、ワゴン車で近づいてきた正体不明の男性らに射殺された。ナバロ町長は前日にセブ市でマッサージ師への暴行容疑で逮捕されたが、麻薬犯罪容疑者リストに名前が掲載されていたという。

さらに2020年2月10日午後10時ごろ、首都圏マニラのマラテ地区にあるホテルにチェックインしようとしていた南部ミンダナオ地方スルタンスマッカ町のアブドゥルワハブ・サバル町長(45)が正体不明のガンマンに射殺された。同町長は麻薬密売に関与していたとの噂があり、サバル町長の名前も麻薬犯罪容疑者リストにあったとされている。

ドゥテルテ大統領就任の2016年から2020年までに麻薬犯罪との関連が疑われるなどで殺害された地方公共団体の関係者はサバル町長で22人目となるという。その大半がいわゆる麻薬容疑者リストに名前のある疑わしき政治家だったとされている。

麻薬疑惑のある警察官に早期退職勧告

2月10日にアーチ・ガンボア国家警察長官は会見で「麻薬犯罪との関連が疑われる現職の警察官357人に対し面接を通じて早期退職を勧めた」ことを明らかにした。これは今後の麻薬捜査強化の過程で現職警察官が摘発、逮捕されることで警察への威信、信頼が揺らぎかねないとして疑惑警察官の早期現役引退を促したものであると説明した。

パネロ大統領府報道官も「麻薬犯罪容疑者リストに名前のあるとされる警察官の早期退職」という方針を大統領も支持しているとして、政府としても容認する姿勢を示した。

パネロ報道官によると退職勧告対象者には個人名は明らかにしなかったが警察の最高クラスに近い幹部も含まれているという。

ガンボア長官は「あくまで現職警察官の逮捕を回避することと疑惑警察官の組織からの排除が目的である。しかし勘違いしないでほしい、退職したからと言って麻薬犯罪の捜査の手から逃れることができる訳ではない。きちんと法の裁きは受けてもらう」と疑惑警察官に釘を刺した。国家警察によると早期退職勧告を受けた警察官のほとんどすべてが早期退職に同意したが、同意しなかった警察官が1人だけいたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中