最新記事

日本社会

「上級国民」現象を生み出したのは誰だ? ネット炎上研究から人物像をあぶりだす

THE FAVORITISM QUESTION

2020年2月20日(木)12時30分
澤田知洋(本誌記者)

mag20200224coverstory1.jpg

本誌「上級国民論」特集21ページより

――「上級国民」現象を広めているのは誰なのか。

「上級国民」に関する書き込みの状況を見ると、やはり正義感から書き込んでいる人が多く、「優遇」されているということに対して本気で怒っているのだろう。また属性別では、「主任・係長以上」の役職、男性、年収が高い人々は炎上に書き込みやすいことが過去の調査で分かっている。

「上級国民」現象について調査を行ったわけではないが、同じような人たちが書き込んでいると予想している。なぜなら、過去の炎上では事例ごとに書き込んでいる人々の属性はあまり変わらなかったからだ。

ネットに書き込むなど炎上に参加している人の数はそこまで多くないはずで、私の過去の研究によるとネット利用者全体の0.5%から多くても1.1%だ。

ただ、炎上そのものを「知らない」と答えた人は8%程度しかおらず、いずれの炎上も認知度自体は高い。今回のケースも認知している人は多く、「上級国民」というワードを日常的に使っている人ははるかに多いと予想している。

――「上級国民」現象は、どの程度社会の意見を反映しているのだろうか。

ネット上の過激な意見は、社会の意見分布からは外れている場合が多い。ネットに書き込むというプロセスに踏み込む人は、それなりに強い思いを持っている人。強い思いを持っている人ほど大量に書き込むので、ごく少数のはずの過激な意見の数がネット上では多い。

「上級国民」に対する強い批判がネット上で大量にみられるが、おそらくそれは社会の分布からは外れている。(社会全体で言えば)もうちょっと中庸的な意見が多いのだろう。「どちらかと言うと許せない」と言うような意見が多数を占めるのでは。

――「上級国民」という単語は定着したといえるか。

そう思う。11年の東日本大震災後、店などの通常の営業活動が「不謹慎だ」と非難される「不謹慎狩り」が流行った。

不謹慎だと攻撃する人も、逆に不謹慎狩りに批判的な人もこの言葉をよく使うようになった結果、社会に定着した。今回も上級国民という単語が、炎上を離れてそのような経過をたどるのではないか。

※本誌2月25日号「上級国民論」特集では山口講師ら専門家に話いたほか、「上級国民」と批判を浴びた池袋の事故に加えて、元特捜部長の石川達紘が起こした自動車暴走事故、安倍政権に近いとされる元TBSワシントン支局長の山口敬之の性的暴行疑惑についても取材し、「上級国民」現象の解明を試みた。

20200225issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月25日号(2月18日発売)は「上級国民論」特集。ズルする奴らが罪を免れている――。ネットを越え渦巻く人々の怒り。「上級国民」の正体とは? 「特権階級」は本当にいるのか?

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中