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「上級国民」現象を生み出したのは誰だ? ネット炎上研究から人物像をあぶりだす

THE FAVORITISM QUESTION

2020年2月20日(木)12時30分
澤田知洋(本誌記者)

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本誌「上級国民論」特集21ページより

――「上級国民」現象を広めているのは誰なのか。

「上級国民」に関する書き込みの状況を見ると、やはり正義感から書き込んでいる人が多く、「優遇」されているということに対して本気で怒っているのだろう。また属性別では、「主任・係長以上」の役職、男性、年収が高い人々は炎上に書き込みやすいことが過去の調査で分かっている。

「上級国民」現象について調査を行ったわけではないが、同じような人たちが書き込んでいると予想している。なぜなら、過去の炎上では事例ごとに書き込んでいる人々の属性はあまり変わらなかったからだ。

ネットに書き込むなど炎上に参加している人の数はそこまで多くないはずで、私の過去の研究によるとネット利用者全体の0.5%から多くても1.1%だ。

ただ、炎上そのものを「知らない」と答えた人は8%程度しかおらず、いずれの炎上も認知度自体は高い。今回のケースも認知している人は多く、「上級国民」というワードを日常的に使っている人ははるかに多いと予想している。

――「上級国民」現象は、どの程度社会の意見を反映しているのだろうか。

ネット上の過激な意見は、社会の意見分布からは外れている場合が多い。ネットに書き込むというプロセスに踏み込む人は、それなりに強い思いを持っている人。強い思いを持っている人ほど大量に書き込むので、ごく少数のはずの過激な意見の数がネット上では多い。

「上級国民」に対する強い批判がネット上で大量にみられるが、おそらくそれは社会の分布からは外れている。(社会全体で言えば)もうちょっと中庸的な意見が多いのだろう。「どちらかと言うと許せない」と言うような意見が多数を占めるのでは。

――「上級国民」という単語は定着したといえるか。

そう思う。11年の東日本大震災後、店などの通常の営業活動が「不謹慎だ」と非難される「不謹慎狩り」が流行った。

不謹慎だと攻撃する人も、逆に不謹慎狩りに批判的な人もこの言葉をよく使うようになった結果、社会に定着した。今回も上級国民という単語が、炎上を離れてそのような経過をたどるのではないか。

※本誌2月25日号「上級国民論」特集では山口講師ら専門家に話いたほか、「上級国民」と批判を浴びた池袋の事故に加えて、元特捜部長の石川達紘が起こした自動車暴走事故、安倍政権に近いとされる元TBSワシントン支局長の山口敬之の性的暴行疑惑についても取材し、「上級国民」現象の解明を試みた。

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2020年2月25日号(2月18日発売)は「上級国民論」特集。ズルする奴らが罪を免れている――。ネットを越え渦巻く人々の怒り。「上級国民」の正体とは? 「特権階級」は本当にいるのか?

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