最新記事

イスラム過激派

IS関連テロ組織、アジアでいまだ潜伏・活動中 インドネシア、治安部隊が容疑者射殺

2020年2月10日(月)15時35分
大塚智彦(PanAsiaNews)

JADは最も過激なテロ組織

ワヒュー容疑者が所属していたとされるJADは、数々のテロ事件への関与で反テロ法違反に問われて2018年6月に死刑判決を受けたアマン・アブドゥルラフマン容疑者が2014年に設立したイスラム教過激派組織。その後ISとの関係が明らかになり米政府が2017年に国際テロ組織として指定、インドネシア国内で一時は約4000人のメンバーを擁していた。

現在、インドネシアで最も過激なテロ組織とされ、2016年1月のジャカルタ市内中心部での自爆テロ(4人死亡)や2017年5月にジャカルタ市内東部のバスターミナルでの自爆テロ(警察官3人死亡)、2018年5月のスラバヤ市内警察署での自爆テロなど数々のテロ事件を実行している。その手口の大半は自爆テロによるのも特徴とされる。

さらにフィリピン南部を活動地域とするフィリピンのテロ組織「アブ・サヤフ」と連携して、JADメンバーがフィリピンで戦闘訓練を実施したり、武器の供与を受けたりしていたことも明らかになっている。

2019年1月にフィリピン南部スールー州ホロ市の教会で起きた自爆テロ(19人死亡、48人負傷)の実行犯はインドネシア人男女で、アブ・サヤフの支援を受けて実行されたとされ、両組織の密接な関係を象徴する事件とした注目された。

2019年10月10日には当時のウィラント調整相(政治・法務・治安担当)がジャカルタ西方のバンテン州で暴漢に刃物で刺される事件が発生。さらに11月13日には北スマトラ州の州都メダンの警察署で自爆テロ(容疑者1人死亡、警察官など6人負傷)も起きている。いずれの事件も実行犯はJADのメンバーとされている。

令状なしでも捜査可能、軍隊も動員

こうした数々のテロ事件への関与からインドネシア治安当局はテロ対策最重要対象としてJADを位置付け、各地でメンバーや支持者の逮捕、拘束、取り調べが強化されている。

特に2018年以降は裁判所の決定でJAD関連の事案に関しては「令状なしの捜索や拘束」が特例として認められるようになったほか、それまで国家警察の対テロ特殊部隊「デンスス88」が主に担ってきたテロ対策に法改正で国軍も関与できるようになり壊滅作戦は進んだ。

2019年末にはインドネシア東端のパプア州にJADが活動地域を移そうとしているとの情報も流れたが、これもJADが窮地に追い込まれていることの反映といわれた。

こうした治安当局などの徹底した対策の結果、JADが関連したと思われるテロ事件は未遂も含め2019年には8件にとどまり、前年2018年の約半数に減少、2019年に逮捕したJAD関連の容疑者は280人にも上っている。

このうち74人の逮捕はウィラント調整相が襲撃された10月以降、同事件に関連した容疑者逮捕というから、現職閣僚の襲撃事件がいかに大きな衝撃を政府、治安当局に与えたかがわかる数字となっている。

今回のJADメンバーとされる容疑者の射殺事件は、2020年も依然としてJADを中心とするテロ組織の活動が続いており、テロの脅威が完全に払しょくされてはいないことを改めて印象付け、まだ警戒が必要であることをインドネシア国民に認識させる結果となった。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

UBS、資本規制対応で米国移転検討 トランプ政権と

ビジネス

米オープンAI、マイクロソフト向け収益分配率を8%

ビジネス

中国新築住宅価格、8月も前月比-0.3% 需要低迷

ビジネス

中国不動産投資、1─8月は前年比12.9%減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中