最新記事

EU

ブレグジットで「EUの中心地」となった小さな村で感じるEUの意義

2020年2月7日(金)15時00分
モーゲンスタン陽子

「ヨーロッパ全体にとっては(ブレグジットは)悲しい日だ」 Euronews-YouTube

<イギリスが欧州連合を離脱したためEUの地理的構図が変わり、ドイツのガートハイムという小さな村が、EUの正式な「地理的中心地」となった......>

ドイツはバイエルン州北部、ヴュルツブルク群に、ガートハイムという小さな村がある。人口約80名。菜の花畑に囲まれた1本道を走るのはバス2路線のみ、信号は1か所しかない。

そんな村がこの2月、にわかに世界の注目を集めることとなった。イギリスが欧州連合を離脱したためEUの地理的構図が変わり、このガートハイムがEUの正式な「地理的中心地」となったのだ。


テレーザ・メイ前首相を名誉村民に?

1月31日金曜日の夜、ガートハイムでは村民が集まり、記念すべき日の準備を始めた。畑に囲まれた広場にはためくのはドイツ、EU、そして、ガートハイムが所属する行政管区ファイツへーヒハイムの旗だ。東経9度54分 07秒・北緯49度50分35秒に位置する新中心地は、村民が所有する畑の真只中にある。

喜ぶ住民のなかからは、この小さな村の歴史的な出来事を記念して、テレーザ・メイ前イギリス首相をガートハイムの名誉村民に、という声も上がっている。しかし、多くの住民の心境は複雑だ。ファイツへーヒハイムの長、ユルゲン・ゲッツは「もちろんガードハイムにとっては喜ぶべきことだ。しかし、ヨーロッパ全体にとっては(ブレグジットは)悲しい日だ」と述べている(ロイター)。

EUの「へそ」の経済効果

うれしいニュースは突然発表されたわけではない。2017年3月29日、テレーザ・メイ前首相がリスボン条約第50条を履行しブレグジットを宣言すると、パリの地理情報エンジニア施設IGNの地図学者によって、新中心地はその日すぐさま算出された。EU全域をデジタルで平坦化し、実際に布きれを持ち上げるようにして正確な中心地を特定したという(ガーディアン)。

そのニュースをラジオで聞いたゲッツは、「初めは、ちょっと早いエイプリルフールのジョークかと思った」と思い返す。EUの中心地は2004年、おもに東欧の10カ国が加盟して以来ずっとドイツにある。さらに2007年にルーマニアとブルガリアが加わり、2013年にクロアチアが加わった。クロアチアが加わった時点でセンターとなったのが同じバイエルン州のヴェステルングルント、ガートハイムの56キロ北西だ。(同年、フランス海外県のマヨット島が加わると、中心は東に500メートルずれた。)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、北朝鮮の金総書記に新年のメッセージ

ワールド

焦点:ロシア防衛企業の苦悩、経営者が赤の広場で焼身

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中