最新記事

映画

アカデミー賞3冠!今週公開『1917』が「ワンカット」で捉えた戦争の恐怖

Capturing the Horror of War

2020年2月11日(火)18時00分
デーナ・スティーブンズ

『1917』はカット割りがないかのような撮影手法で、マッケイ演じるスコフィールド(中央)とブレイクの過酷なミッションを追う ©2019 UNIVERSAL PICTURES AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

<サム・メンデス監督が第一次大戦を描いた『1917 命をかけた伝令』(日本公開は2月14日)が、第92回アカデミー賞の撮影賞、録音賞、視覚効果賞の3部門で受賞。全編を「ワンカット」に見せるためのトリックを随所に採用し、最高の映像テクニックで戦争を表現することに成功した>

第一次大戦は人類史上初めて「映像化」された戦争だ。この戦争が勃発した1914年当時は映画の技術も文化も黎明期にあり、目の前で展開される未曽有の「大戦」にどう向き合うかは、まだ手探りの状態だった。

まず実録のニュース映画が、外国での戦争を新聞でしか知らなかった人々に大きな衝撃を与えた。そして有名な「ソンムの戦い」はなかなか決着がつかず、再現ドラマと実録映像で構成したプロパガンダ映画『ソンムの戦い』が16年にイギリスで公開されたときは、まだ本物の戦闘が続いていた。

この作品には、前線の悲惨な実態を伝えると国民の士気が低下するとの苦情もあったが、兵士の家族たちは何度も映画館に足を運び、行進する若者たちの中に懐かしい顔を見つけようとしたという。

お次はチャールズ・チャップリンの『担へ銃(になえつつ)』。18年の作品で、休戦協定の結ばれる3週間前という微妙なタイミングの公開だった。

眼前の戦争を喜劇に仕立てるとは何事か、なぜチャップリンは母国イギリスで軍隊に志願しなかったのかなど世間は騒がしかったが、作品は世界中でヒットした。プロパガンダでも反戦映画でもなく、塹壕の中で必死に生き延びようとする新兵の姿を感動的に描いていたからだ。

25年に公開されたキング・ビダーの『ビッグ・パレード』は、戦争を悲劇として描いたハリウッド映画として先駆的な作品だった。『担へ銃』や『ソンムの戦い』と同様、人物目線でカメラを移動させながら撮る手法で、塹壕内の恐怖をリアルに伝えた点も見逃せない。

終戦から40年後に発表されたスタンリー・キューブリックの反戦映画『突撃』(1957年)も、カメラを据え付けた台車をレールに載せて移動させる撮影手法で、塹壕戦を指揮する傲慢な将校たちの姿を巧みに描いた。

第二次大戦の映画では2007年のジョー・ライト監督作品『つぐない』も、ダンケルクの地獄を味わう若者の姿を5分間のノーカット映像で捉えていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中