最新記事

映画

アカデミー賞3冠!今週公開『1917』が「ワンカット」で捉えた戦争の恐怖

Capturing the Horror of War

2020年2月11日(火)18時00分
デーナ・スティーブンズ

移動式のカメラを用いて長回しで撮るという手法は、気が付けば戦争映画の定石の1つになっている。サム・メンデスの新作『1917 命をかけた伝令』も、全編をワンカットで撮影したかに思わせる手法を用いた斬新とも伝統的とも言える作品だ(本作はゴールデングローブ賞の作品賞〔ドラマ部門〕と監督賞を受賞。アカデミー賞でも10部門にノミネートされ、撮影賞、録音賞、視覚効果賞の3部門で受賞を果たした)。

物語は至ってシンプルだ。野原で昼寝をしていた英軍の若き兵士スコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーンチャールズ・チャップマン)が司令官(コリン・ファース)に呼び出され、塹壕に直結した指揮所に出頭する。

2人に与えられた任務は、最前線にいる友軍に作戦変更の密命を伝えること。失敗すれば、ブレイクの兄を含む同胞1600人がドイツ軍の待ち伏せ攻撃で命を落とす。映画の開始早々、2人の危険なミッションが始まる。

撮影監督は『ブレードランナー2049』でアカデミー賞に輝いたロジャー・ディーキンス。カメラは兵士たちに密着し、その不安な表情をクローズアップし、戦場を俯瞰し、臨場感を途切れさせない。

この作品では、全編をワンカット映像に見せるためのトリックが随所に使われている(アルフレッド・ヒッチコックの『ロープ』やアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』も同じ手法を使った)。

実際、戦場にはカット割りの痕跡を消すチャンスがたくさんある。真っ暗闇もあるだろうし、砲弾の煙で視野を塞いでもいい。なんなら主人公を気絶させる手もある。そういうトリックに、気付くことはできる。

しかし、さすがディーケンス。少しも不自然なところがない。だから筆者も撮影技法のことなど忘れて、ドイツ軍が放棄した塹壕を巨大なネズミと一緒にはい回る2人の若者の恐怖と不安を肌で感じた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ビジネス

NY外為市場=円・スイスフラン上げ幅縮小、イランが

ビジネス

米P&G、通期コア利益見通し上方修正 堅調な需要や
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中