最新記事

中国

習近平「1月7日に感染対策指示」は虚偽か

2020年2月16日(日)22時07分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

自覚が足りなかったというのなら、人民はまだその反省に耳を貸す心は持っているかもしれないが、自覚していたのに「めでたく遊んでいた」ということになれば、人民は許さないだろう。

どうもおかしいと思って検証を続けたところ、とんでもない証拠を発見してしまった。

なんと、新華社が2月3日に発表した中共中央政治局常務委員会議プレスリリースと見比べてみると、2月15日の「求是」に習近平の署名で書いてある文章の冒頭にある部分が、存在しないのである。

つまり、「1月7日の会議で武漢新型コロナウイルス肺炎の疾病に関して警告を出した」というのは「後付け」であり、もっとはっきり言うならば「虚偽である」ということが言えよう。

会議内容偽造に追い込まれた習近平

2月15日になって、すでに公表してある「2月3日の中共中央政治局常務委員会の会議で述べたこと」にさらなる「補足」をしなければならなくなったのは、一つには、昨年12月30日に新型肺炎の流行を警告したために武漢警察に摘発された李文亮医師が2月7日に死亡したことに対して中国人民が激しく憤り、ネットが炎上したからだろう。

さらに中国全土の患者の数は驚異的なほどの勢いで増加し、死者の数も激増している。それは武漢や湖北省においてだけでなく、全国規模で拡大を続けているので、14億に上る中国人民はみな「明日は我が身か」と不安な日々を過ごし、職場に行くこともままならぬ状態で、いつ怒りが爆発しないとも限らない。

習近平はそれが怖いのではないのか?

2月15日の「求是」に載った習近平の文章は、新華網だけでなく、人民日報の電子版あるいは中央テレビ局CCTVでも大々的に報道しているところを見ると、習近平が自己弁護に必死である姿が浮かんでくる。しかし矛盾だらけで、墓穴を掘ったことになるだろう。

さらに決定的な証拠

こうなったら、トコトン追いかけるのが研究者根性というものだ。

いっそのことと思い、1月7日に開催された中共中央常務委員会会議のプレスリリースを探してみた。

すると、あるではないか!

こちらをご覧いただきたい。

仇でも討つようにチェックしてみたところ、出席しているのは「全国人大(人民代表大会)常務委員会、国務院、全国政治協商会議、最高人民法院(最高裁判所)、最高人民検察院党組織、中央書記処書記」で、その活動報告を聞くのが目的だった。

何のことはない。

これは毎年恒例の「3月に全人代と全国政治協商会議を開催する前の意見聴取」だったのである。したがって武漢の文字も新型コロナウイルスの文字も全く存在しない。

明らかに習近平は嘘をついたことになろう。

百歩譲って、議題としてではなく、個人的に武漢の肺炎に関する立ち話くらいはしたかもしれない。しかしテーマから見る限り、1月7日の会議は完全に全人代と政治協商会議の準備作業であって、それ以外の要素が入り込む余地がない。。その意味で、2月15日の「求是」の内容は「捏造」に分類して良いだろう。なぜいずればれてしまうような、このような稚拙な偽装工作をしたのか理解に苦しむが、よほど追い込まれているものと判断される。

こんな人を国賓として招こうとしている安倍政権は、もう尋常ではないと言うほかない。これに関しても、この「2月15日」に、とんでもないことが起きているので、別途考察することにしよう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国とインドネシア、地域の平和と安定維持望む=王毅

ビジネス

ユーロ圏経常収支、2月は調整後で黒字縮小 貿易黒字

ビジネス

ECB、6月利下げの可能性を「非常に明確」に示唆=

ビジネス

IMFが貸付政策改革、債務交渉中でも危機国支援へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中