最新記事

感染症

中国が新型コロナウイルスに敗北する恐怖

How to Tell What’s Really Happening With the Wuhan Virus

2020年1月27日(月)19時25分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

中央の顔色を窺う地方当局に比べれば、中央政府には数字操作をする動機は弱い。そして公称の患者数が41人から2000人近くまで急増したのは、中央政府が突然、この病気に関心を示すようになった結果かも知れない。

しかし、政府関係者の動きは通常どおりでもある。一般からの情報、特に悪い情報を隠蔽するという悪習を抜け出すのは難しい。中国では膨大な資源が情報の統制と隠蔽に費やされており、今回の大流行について自主的に情報を発信した医師や記者、一般の人々は脅迫されたり、逮捕されたりしている。インターネットには突如、政府を称賛し、無許可の情報を投稿した人々を非難する大量の投稿があふれだした。

中国メディアは比較的自由な状態を享受しており、財新やいくつかのメディアは優れた重要な報道を行っている。だが、それは中国で災害が発生した直後によく起きる現象だ。事件発生直後は、情報を統制する当局が方向を決定し、実行するまでの数日間に比較的な自由な期間が生まれる(四川大地震の後、そして天津の大爆発事故の後もそういう状態になった)。

だがすでに、当局の発表と矛盾する記事を掲載した新聞は謝罪を強いられている。2009年に新疆ウイグル地区で起きた暴動の後のように、ある時点でインターネットの接続が切断される可能性もある。

たとえ政府が情報の歪曲を望んでいないとしても、情報収集の能力は限られている。診断のための検査キットは不足しており、感染可能性のある人口は膨大で、最も影響が大きい多くの貧しい層に、政府の手は届かない。

中国の科学界はこの状態を真剣に憂慮しており、可能な限り迅速にすべての情報を外国機関と共有しようとている。だがそれも、科学的研究を含めあらゆるものが政治の影響を受ける環境のなかで、の話だ。たとえば習近平国家主席の独裁的な力が強化されて以来、多くの科学論文は習近平思想をほめたたえる言葉から始まるようになった。

病院の廊下に放置された遺体は何?

病院の廊下に遺体が放置されている状態など、武漢の病院内の様子を示す不穏な映像がいくつもインターネット上にあがっている。

だが、こうした映像は直接的にウイルスによる被害を表しているとは限らない。武漢は人口1100万人の大都市だ。中国の平均死亡率からすると、一日約213人が死亡している。

さらに今はインフルエンザが蔓延する冬とあって、通常よりも死亡率が上がっている。一部にはタイトルが間違っている動画や作り物の映像も存在する。

現在、武漢の医療保険機関は、完全に収容能力を上回る患者であふれていることを思い出してほしい。風邪をひいた人がみな病院で検査を受けようとするので、医療スタッフは疲れ果て、途方に暮れている。軍の医療スタッフ450人が支援に派遣され、プレハブの救急野戦病院2棟が建設中だが、それだけではとても間に合わないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボ、アルツハイマー病薬試験は「宝くじ」のようなも

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ワールド

米民主党議員、環境保護局に排出ガス規制撤廃の中止要

ビジネス

アングル:FRB「完全なギアチェンジ」と市場は見な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中