最新記事

韓国社会

韓国・文在寅も心動かした「仁川のジャン・バルジャン」 その正体は?

2020年1月24日(金)19時20分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネーター)

人権弁護士だった文在寅も言及

さらには大統領までもが、この家族の事を言及するようになる。事件から6日後、大統領府・青瓦台で行われた首席・補佐官会議にて文在寅大統領は、この父子について触れ、「政府と自治体は市民の温情に頼るのではなく、福祉制度を通じて制度的に(彼らを)助ける道があるのか積極的に探ってほしい」と指示。

さらに、「快く彼らを許したスーパーマーケットの主人、彼らを帰す前にクッパをおごりながら涙を流した警察官、市民の皆さん達の温情は、私たちの社会が希望ある暖かい社会だということを証明してくれた」と語った。

バルジャンの正体

ここまで聞くと、感動の美談である。しかし、その後ジャン・バルジャンイメージが一変する。12月27日放送された報道番組『궁금한 이야기 Y(気になる話Y)』は、彼の元同級生・元同僚・勤めていたタクシー会社の関係者・常連のネットカフェの主人などにインタビューを行った。そこで出てきた証言によると、「息子の病院に行くお金を貸してほしいと嘘をついてスポーツくじにお金をつぎ込んでいた」「タクシーの売上料金を書き換えて提出された」「そもそも、万引きするのに息子を連れていくとは、理解できない」など、家族思いの父親像が段々と崩れていく。

父親は、この報道番組のインタビューに弁明していたが、「乗客が置き忘れた携帯電話を届けず、そのままネコババして副収入として売っていた」という点に関しては認めた。

注目度が高かった現代版ジャン・バルジャンの美談だっただけに、この衝撃の報道は、多くの人を失望させることとなる。年明けには、この番組を見た多くの支援者たちから支援中止の申し出が続いた。すでに全国から集まった支援金は、2千数万ウォン(約200万円)と米等食料200万ウォン(約20万円)相当。

支援金窓口となっている仁川募金会は、すでに送られた募金も希望者には返金手続きを行っているが、未返金となったお金はジャン・バルジャン一家に渡すか会議で決定するという。

対応した警官にまで非難の声が

さらに、非難の目はこの時マートに駆け付け父子にクッパをおごった2人の警察官にまで飛び火した。12月29日付けの新聞の読者欄に、「警察官らは、十分に確認せずに窃盗容疑者を訓戒措置した。これは職務遺棄に該当する」という読者からの投書が載った。市民から通報を受けたものの、情に流されてきちんと調べもせずにそのまま帰してしまったことに疑問を持つ市民もいるようだ。この警察官らは、報道番組の放送前、美談が話題となったころに仁川警察庁長官表彰を授与されており、それも批判に輪をかける一因になったようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロシア大手2行、インド支店開設に向け中銀に許可申請

ワールド

ガザの反ハマス武装勢力指導者が死亡、イスラエルの戦

ビジネス

マクロスコープ:強気の孫氏、疑念深める市場 ソフト

ビジネス

実質消費支出10月は3.0%減、6カ月ぶりマイナス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中