最新記事

朝鮮半島

「だから北朝鮮は韓国をパッシングする」......対外宣伝メディアが理由を指摘

2020年1月16日(木)15時30分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

南北協力を先行させたい文在寅に対して北朝鮮は素っ気ない Korea Summit Press/REUTERS

<北朝鮮が韓国に望むのは、いずれもアメリカとの合意なくして韓国が単独で実行するのは不可能なこと>

韓国の文在寅大統領は14日、青瓦台(大統領府)で行った年頭の記者会見で、「南北間、そして朝米間対話のいずれも現在は楽観できないが、悲観する段階でもない」と指摘。一方で、米国の大統領選が本格化してゆけば、北朝鮮と対話する余地も狭まることを前提に、「朝米間に時間的な余裕が多いとは思っていない。朝米はできるだけ早く対話に乗り出す必要があり、韓国政府もそうなるよう努める」と述べた。

これは、7日に発表した「新年の辞」で、米朝対話の進展を待つよりは南北協力を先行させたい意思を明らかにしたことの延長線上にあるものと言える。

この「新年の辞」に対し、米国のハリス駐韓大使がすかさずけん制したのは本欄でも述べたとおりだ。昨年、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄するかどうかを巡って、韓国が米国から多大な圧力を受けたことは記憶に新しい。それを思い出すまでもなく、安全保障問題で米国との歩調を乱すことは、韓国にとって大きなリスクを伴う。

<参考記事:「何故あんなことを言うのか」文在寅発言に米高官が不快感

しかしそうまでしても、北朝鮮には文在寅氏からのラブコールを受け入れる気配はない。北朝鮮は文在寅氏の会見にぶつけるように、韓国がパッシング(Passing=素通り)される理由を解説してみせた。

<参考記事:日米の「韓国パッシング」は予想どおりの展開

北朝鮮の対外宣伝メディアである「メアリ」14日付の論評で、「南朝鮮(韓国)当局はなぜ無視されなければならないのか」としつつ、次のように主張した。

「歴史的な北南宣言(注=昨年の首脳会談における南北合意)が発表された後、私たち共和国は終始、その履行のために主導的かつ善意的で度量の大きい措置を相次いで取ると同時に、南朝鮮当局が民族の問題を解決するために、外勢との『協調』よりも、民族の利益を優先する立場を取るべきであることを、わかりやすく助言もし、忠告もした。しかし、南朝鮮当局は北南宣言の履行のための根本的かつ原則的な問題からは目をそむけたまま、米国に盲従盲動し、我々と合意した宣言のいずれの条項も履行できなかった。むしろ隠蔽された方法で高度な戦争装備を搬入し、外勢との合同軍事演習を繰り広げながら、同族を狙った軍事的敵対行為に固執する裏切り行為をはばからず、全民族の怒りを誘った。

盲従は無視を招き、裏切りは軽蔑を呼ぶものだ。

いかなる自主性もなく、外部勢力に盲従盲動する南朝鮮当局に果たして何を期待することができるだろうか」

このような主張は、北朝鮮が従来から繰り返してきたもので、その内容は単純明快だ。北朝鮮が望むのは、開城工業団地や金剛山観光の再開など南北の経済協力であり、米韓合同軍事演習の完全な中止であり、米国からのステルス戦闘機導入などの軍事力増強の停止である。これらのいずれも、米国との合意なくして韓国が独断で実行するのは不可能だ。

こんな要求を突き付けてくる北朝鮮と対話したいなら、文在寅氏は南北対話より先に、米国との対話を先行させる必要がある。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

UBS、資本規制対応で全ての選択肢検討 月内に正式

ワールド

IEA「油田・ガス田の生産減が加速」、OPECは報

ワールド

アングル:中国人民銀は早期利下げ回避か、経済減速も

ワールド

貿易収支、8月は2425億円の赤字 対米自動車輸出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中