最新記事

オーストラリア森林火災

オーストラリア森林火災で火災積乱雲が異常発生、その影響は

Smoke From Australia Fires Has Now Reached the Stratosphere, NASA Says

2020年1月15日(水)17時45分
アリストス・ジョージャウ

国際宇宙ステーションから撮った激しい噴煙(1月4日) NASA

<森林火災の影響が、ついに成層圏へ>

オーストラリアに壊滅的な被害をもたらしている森林火災の煙が地球を一周し、発生源のオーストラリア上空に戻ってきつつあることが、米航空宇宙局(NASA)の観測により判明した。火災の煙ははるか上空に達し、地球大気のうち地表から2つ目の層にあたる成層圏に届くほどになっている。

森林火災の煙は1月8日までに南米に達し、一部の地域では煙によって空にもやがかかったようになったほか、日の出や日の入には普段と違った色の光が見えたと、NASAは報告している。

2019年9月以降、オーストラリアでは数百件の森林火災が発生。消失面積は数百万ヘクタールに達する。この火災により少なくとも28名が死亡し、約2000戸の家屋が焼け落ちた。命を落とした野生動物は10億匹を超えると、BBCは報じている。

<参考記事>オーストラリア森林火災、動物の犠牲は5億匹

記録的な高温と乾燥が火災の拡大に適した環境を作り出したという。ドイツのポツダム気候影響研究所の気候学者シュテファン・ラームシュトルフはタイム誌の取材に対し、世界的な気候変動が進む中、こうした気候がオーストラリアではもっと一般的になる可能性が高いと語った。

最大級の煙が成層圏に

NASAによれば、この暑く乾いた気象条件はまた「異例なほど多数の」火災積乱雲の発生を招いているという。火災積乱雲は、火災から高く巻き上がった煙が作る雷雲だ。

「こうした雷雲は、非常に高温となった上昇気流によって、灰や煙、燃える物体が舞い上がることによって引き起こされる。こうした物体の温度が下がると、雲が形成される。これらの雲は、雨は降らせないが雷を起こす」と、NASAの声明は解説する。

火災積乱雲の形成自体は比較的よくあることだが、気象学者マイケル・フロムをはじめとする米海軍研究所(NFL)の研究チームは、2019年最終週から2020年第1週にかけては20件以上を観測した。

「これはオーストラリアで発生した中では最も激しい火災積乱雲の大量発生だ」と、フロムは声明で述べた。

今回の森林火災の煙が世界を一周するほど広がっているのは、火災積乱雲も一因だ。こうした積乱雲により、煙が成層圏にまで達したからだ。火災積乱雲の発生によってオーストラリア上空で成層圏にまで押し上げられた煙の一部は、上空15~19キロメートルにまで到達している。

「こうした噴煙は、数週間かけて上昇していく性質がある。歴史的な順位はそれから判断することになる」と、フロムは説明した。「とはいえ、予備的な調査でわかった科学的証拠から、現在オーストラリアで発生している噴煙の高さは、これまでの記録の上位5つには入るだろう。また、成層圏に放出された煙の総体積は、最近数十年に観測された中では最大級のようだ」

<参考記事>野良ネコが増え続けるオーストラリアで「1世帯2匹まで」のネコ規制条例

(翻訳:ガリレオ)

20200121issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月21日号(1月15日発売)は「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集。ソレイマニ司令官殺害で極限まで高まった米・イランの緊張。武力衝突に拡大する可能性はあるのか? 次の展開を読む。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中