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中国経済

中国経済の強みと弱み──SWOT分析と今後の展開

2019年12月5日(木)11時00分
三尾 幸吉郎(ニッセイ基礎研究所)

また、国際特許出願も急増している。世界知的所有権機関(WIPO)の統計によると、2017年に中国からは4万8875件の出願があり、日本の4万8206件を上回った。日本からの出願も増加傾向にはあるが、中国でからの出願はそれを大きく上回るスピードで増加している(図表-9)。

一方、個々の産業に目を向けると、中国企業の躍進が目立つようになってきた。一例として挙げられるのがスマートフォンである。2018年の世界シェアを見ると、第1位は韓国のサムスン電子で20.8%、第2位は米国のアップルで14.9%だが、第3位には華為技術(ファーウェイ)、第4位には小米科技、第5位にはOPPOと中国企業が入っており、そのシェアを合わせると31.4%で、サムスン電子を上回る。さらに、第4次産業革命でカギを握る次世代移動通信規格「第5世代(5G)」では、その標準必須特許の15.1%をファーウェイが保有しており、ZTE(中興通訊)が持つ11.7%を合わせると、中国企業が世界の四分の一を占める(図表-10)。こうした動きがさまざまな分野に広がれば、前述の構造問題が足かせになったとしても、新しい成長モデルが経済成長を牽引し始める可能性がある。

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中国経済のSWOT分析

以上のような構造改革の潮流を踏まえた上で、中国経済の「Strength(強み)」、「Weakness(弱み)」、「Opportunity(機会)」、「Threat(脅威)」を整理したのが図表-11である。

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まず、中国経済の「Strength(強み)」としては、約14億人に及ぶ巨大な国内市場が挙げられる。米国(約3.3億人)、EU(約5.1億人)、日本(約1.3億人)の合計よりも多い人口がもたらす巨大な市場規模は、大量生産によるコスト削減に有利に働くのに加えて、欧米先進国企業がグローバル・スタンダードを握る上でもカギを握る。また、購買力平価(PPP)の半分程度とされる割安な人民元レートも国際競争力を保つ上での強みとなっており、「大衆創業、万衆創新」を合言葉とする中国政府の強力な後押しを背景に新興企業を育てるビジネス生態系(Ecosystem)が出来上がりつつあることも強みといえる。特に先日視察した深圳では、いわゆる「パクリ(Imitation)」は恥ずかしいこととの認識が定着しつつある。深圳生粋のスタートアップ企業の中にも、その発明を元にビジネス展開すると間も無く、同業者による「パクリ」の嵐にあって競争力を失い、ビジネスが破綻に追い込まれて、その発展の芽が摘まれるという事象が目に付くようになってきたからだ。そして、知的財産権を守る戦略の重要性や保護の必要性を再認識するとともに、「パクリ+α(Emulation)」や「創新(Innovation)」を目指す風土が醸成されてきている(図表-12)。

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他方、「Weakness(弱み)」としては、第2章で挙げた少子高齢化に伴う人口オーナスや過剰設備・債務問題、それに目覚ましい発展を遂げている科学技術力に関しても、まだ発展途上で米国には遠く及ばない点は弱みといえる。

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