最新記事

中国

ロバが世界的に激減......中国古来の生薬としての需要が高まり

2019年12月25日(水)18時15分
松岡由希子

ロバは世界5億人以上の人々の生活を支えているのだが......Giovanni Laudicina-iStock

<近年、中国古来の生薬「阿膠」(あきょう)の需要が高まり、これによりロバの頭数が世界的に減少し問題になっている......>

阿膠(あきょう)とは、ロバの皮膚から抽出されたコラーゲンを主成分とする中国古来の生薬で、貧血や便秘、月経不順の改善や流産の予防など、健康や美容に幅広い効能があるとされている。

かつては上流階級のみが使用できる非常に高価なものであったが、近年、中国の中流階級で需要が高まり、これに伴って、ロバの頭数が世界的に減少している。

中国のみならず、アジア、南米、アフリカでロバの頭数が減少

ロバの保護に取り組む英国の慈善団体「ドンキー・サンクチュアリ」は、2017年に公表した報告書「アンダー・ザ・スキン」の改訂版として、2019年11月に「アンダー・ザ・スキン・アップデート」を公開した。

これによると、阿膠の需要拡大に伴って、中国のみならず、アジア、南米、アフリカでロバの頭数が減少しており、今後5年間で、世界のロバの半数以上が失われるおそれがあるという。

中国では、阿膠の年間生産量が2013年時点の3200トンから2016年には5600トンにまで年成長率20%以上のペースで増加。英レディング大学の試算によると、5600トンの阿膠を生産するためには480万トンのロバの皮膚を要するが、国内供給量は年間180万トン未満にとどまっており、その多くを輸入に頼っている。阿膠を用いた漢方薬品メーカーの東阿阿膠股分有限公司は「中国が2016年時点で350万トンのロバの皮膚を輸入した」と認めている。

1920px-Ejiao.JPG健康や美容に幅広い効能があるとされている生薬の「阿膠」 Deadkid dk-wikipedia

ロバは世界5億人以上の人々の生活を支えている

阿膠の原料となるロバの皮膚の需要増加に伴って、ロバの頭数が世界各地で減少している。中国では、1992年時点で1100万頭を超えていたロバの頭数が2017年には76.3%減の260万頭に減少。南米ブラジルでは2007年から2017年までの間にロバの頭数が約28%減少した。2011年から2017年までの6年間で、中央アジアのキルギスではロバの頭数が約53%減少し、アフリカ南部のボツワナでも37%減少している。ケニアやガーナでも、今後、ロバの頭数が減少すると懸念されている。

ロバは、商品を市場に運搬したり、水や薪などの物資を運ぶ手段として、世界5億人以上の人々の生活を支えている。

つまり、ロバの減少は、ロバとともに生きる人々の生活をも脅かす。ケニアのキセリアンに在住するステファン・ンジョロゲ氏は「ロバを使って、水を運搬したり、農作物を市場に運んだり、建設資材を運搬したりしてきた。我が家ではロバを近くに集めて飼っていたが、同じ日の夜に盗まれた。ロバを失った損失からまだ回復できてない」と訴えている

各国政府の取り組みが必要な段階に

パキスタンが2015年9月にロバの皮膚の輸出を禁止して以降、ガーナ、セネガル、コロンビアなど、18カ国でロバの屠殺や皮膚の輸出が禁じられている。「ドンキー・サンクチュアリ」は、ロバの保護に向けた各国政府や地方自治体の取り組みを支援するとともに、阿膠業界に対して、ロバ由来のコラーゲンを培養するなど、より持続可能な手法を用いるよう求めている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、一部銀行の債券投資調査 利益やリスクに

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 修繕住宅

ビジネス

ECB、イタリアに金準備巡る予算修正案の再考を要請

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+31.07% 予想下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 10
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中