最新記事

性暴力

フランス人記者が見た伊藤詩織さん勝訴とこれからの戦い

2019年12月23日(月)11時20分
西村カリン(AFP通信東京特派員)

今回の伊藤さんの勝訴は、もちろんトラウマや中傷を受けた彼女にとっては非常に重要なものであることは間違いない。ただ、100%満足出来る判決ではないと思う。「半勝利」だ。なぜなら、まだ解決されていない問題が多過ぎるからだ。

判決が出た直後、記事を書きながら、次々と疑問がわいてきた。例えば、なぜ突然、山口さんに対する逮捕状の取り消しがあったのか。警察の捜査中に何が起こったのか。

それに判決文には、こう書いてある――「原告は、将来は職務上の上司となる可能性のあった被告から、強度の酩酊状態にあり意識を失った状態で、避妊具を着けることなく性交渉をされたこと、意識を回復し拒絶した後も、被告に体を押さえ付けられて強引に性交渉を継続されそうになり、その際、ベッドに顔面が押し付けられる形となって呼吸が困難になるなどとして恐怖を感じたこと、これにより、原告が、現在まで、時折、フラッシュバックやパニックが生じる状態が継続していることが認められる」

民事裁判で「合意のない性行為」だったと認めているにもかかわらず、刑事事件で犯罪とされなかったのはなぜか。フランスなら、「合意のない性行為」をレイプと呼ぶ。レイプなら性犯罪であり、民事ではなく刑事事件として扱われる。まあ、フランスもレイプされた女性の扱いが良いと言えないけれど、日本よりはましだと思う。今の日本の法律は、極めてひどい暴力を伴った性行為でない限り、性犯罪として扱わない。だから、山口さんは本気で「法に触れる行為は一切していない」と強調したと思う。おそらく、本人にとってレイプというのは、もっともっと体に目立った傷がいっぱい残る暴力的な性行為なのだろう。

ここで分かるのは、国によって性犯罪の定義が違うことだ。日本での強姦または準強姦は、被害者がそれを立証するにはハードルが非常に高い。高過ぎるから女性が訴えたとしても、容疑者が起訴される可能性が低い。だから、これからも、合意しないまま性行為をされた多くの女性が告訴しないだろう。たとえ、これからたくさんの女性が伊藤さんと同様に民事裁判で数百万円の賠償を得たとしても、受けたトラウマや中傷が和らぐとは思わない。だから、半勝利だと思う。

これからの戦いは、やはり法律を変えることだ。性犯罪の定義を変えることだ。同時に、性犯罪を受けた女性と男性の話をきちんと聞いて、理解出来る警察官や医者を育成すること。将来的には、国際的に性犯罪の共有定義を定めることが望ましい。

2019123120200107issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2019年12月31日/2020年1月7日号(12月24日発売)は「ISSUES 2020」特集。米大統領選トランプ再選の可能性、「見えない」日本外交の処方箋、中国・インド経済の急成長の終焉など、12の論点から無秩序化する世界を読み解く年末の大合併号です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、5対4の僅差 12月利下げの

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、9月は前月比0.1%減 予想外

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22

ビジネス

ドイツ金融監督庁、JPモルガンに過去最大の罰金 5
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中