最新記事

中国共産党

ウイグル弾圧は習近平だけの過ちではない

READING CHINESE CABLES

2019年12月17日(火)19時45分
水谷尚子(明治大学准教授、中国現代史研究者)

流出したウイグル人強制収容の文書は過去にない「重要文献」 HISAKO KAWASAKI-NEWSWEEK JAPAN

<党上層部の作成した文書が流出したことによって世界的に国家主席への批判が高まっているが、ウイグル人の中国化政策は今に始まったことではない>

11月、中国共産党の新疆ウイグル自治区関連文書が大量流出した。新疆では2016年頃からウイグル人統治に関する行政文書が国外流出していたが、今回のものは党上級機関が作成した「重要文献」だ。

流出文書を公表したニューヨーク・タイムズ紙は11月中旬、「習近平(シー・チンピン)が(ウイグル人への弾圧を)容赦するなと、党幹部を対象とする非公開演説の席で述べていた」と暴露した。そして11月下旬には、国際調査報道ジャーナリスト連盟(ICIJ)が強制収容を共産党が国家政策として遂行していることを裏付ける流出文献を公開した。こうした一連の暴露によって現在、習近平国家主席への批判が世界規模で高まっている。

しかし、これまでの新疆史を見れば、共産党による新疆「一体化」は今に始まったことではなく、1人の政治家の誤りで片付けられる事柄でもない。1949年の中華人民共和国成立後、人民解放軍の新疆進攻、生産建設兵団の形成、西部大開発、ウイグル語による教育の廃止、「一帯一路」戦略そして今回のテュルク系民族強制収容......と、じわりじわりと「次の一手」を打ちつつ、一体化政策は今に至る。共産党は満人(満州族)が漢人化していったように、テュルク系ムスリムも漢人化できると思っているようだ。

新疆をどう統治していくかについては、共産党政権下でも為政者によって政策の揺れは存在した。ただ習の時代になると、チベットの弾圧に加担した陳全国(チェン・チュエングオ)が自治区党書記となり、現在のような一体化政策が大々的に遂行されていく。

旧ソ連ではいわゆる「少数民族」の出自でも党中央幹部になる者がいたが、中国共産党はウイグル人を「木偶(でく)」として扱うだけである。今月9日、自治区主席でウイグル人のショホラット・ザキルが外国人記者を前に「職業技能訓練センターの受講生は(脱過激化教育を)全員修了した」と述べたが、在日ウイグル人たちは「センター送りにされた身内からは、いまだに一切連絡がない」と語気を強める。ウイグル人政治家を傀儡として使うことも今に始まったことではない。前自治区主席のヌル・ベクリは汚職のため投獄されたが、口封じのためだったとの説もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国地裁、保守系候補一本化に向けた党大会の開催認め

ビジネス

米労働市場は安定、最大雇用に近い=クーグラーFRB

ワールド

パナHDが今期中に1万人削減、純利益15%減 米関

ビジネス

対米貿易合意「良いニュース」、輸出関税はなお高い=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中